つかえ)” の例文
然るに先日の御書状あまりに大問題にて一寸ちょっと御返事にさしつかえ不相済あいすまぬと存じながら延引いたし居候内、今年も明日と明後日とのみと相成あいなり申候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
もし我々の趣味がいわゆる人格の大部を構成するものと見傚みなし得るならば、作を通して著者自身の面影おもかげうかがう事ができると云ってもつかえないでありましょう。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なに小夜さえなければ、京都にいてもつかえないんだが、若い娘を持つとなかなか心配なもので……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
惜しい事に作者の名は聞き落したが、老人もこうあらわせば、豊かに、おだやかに、あたたかに見える。金屏きんびょうにも、春風はるかぜにも、あるは桜にもあしらってつかえない道具である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう、こだわって来ては際限がありませんが、十年前の自分と十年後の自分を比較して過去と現在に区別のできないものはありませんから、こう分けてつかえないだろうと思います。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
または書蠹のむしが本をくらうと見立ててもつかえない。つまり人間が土の中で、あかがねを食って、食い尽すと、また銅を探し出して食いにゆくんでむやみに路がたくさんできてしまったんである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日藤尾に逢う前に先生の所へ来たら、あの嘘を当分見合せたかも知れぬ。しかし嘘をいてしまった今となって見ると致し方はない。将来の運命は藤尾に任せたと云ってつかえない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし普通の小説家のようにその勝手な真似の根本をぐって、心理作用に立ち入ったり、人事葛藤じんじかっとう詮議立せんぎだてをしては俗になる。動いても構わない。画中の人間が動くと見ればつかえない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白いものは白で区別してもつかえないから、これと同時に、形や質の点においても区別して、一個の具体を二重にも三重にも融通のくように取り扱わなくっては真相には達せられんはずであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この模様ならもう少し不平を陳列してもつかえはない。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)