擬宝珠ぎぼしゅ)” の例文
旧字:擬寶珠
女は、帯にも突込つっこまず、一枚たなそこに入れたまま、黙って、一帆に擦違すれちがって、角の擬宝珠ぎぼしゅを廻って、本堂正面の階段の方へ見えなくなる。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旧藩時代、城下の第一防禦線をなしていた、幅七八間の川に擬宝珠ぎぼしゅのついた古風な橋がかかって居り、その向こうは一面の青田である。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
白い石に野羽玉ぬばたまの波をまたぐアーチの数は二十、欄に盛る擬宝珠ぎぼしゅはことごとく夜を照らす白光のたまである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
数寄屋すきや橋の唐金からかね擬宝珠ぎぼしゅは、通行人の手ずれで、あかく光っていた。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
きざはしの、あの擬宝珠ぎぼしゅの裂けた穴も昔のままで、この欄干を抱いて、四五尺、すべったり、攀登よじのぼったか、と思うと、同じ七つ八つでも、四谷あたりの高い石段に渡した八九けんの丸太を辷って
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代助は父に呼ばれてから二三日の間、庭の隅に咲いた薔薇ばらの花の赤いのを見るたびに、それが点々として眼を刺してならなかった。その時は、いつでも、手水鉢てみずばちの傍にある、擬宝珠ぎぼしゅの葉に眼を移した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妙に心もあらたまって、しばらく何事も忘れて、御堂みどうの階段を……あの大提灯おおぢょうちんの下を小さく上って、おごそかなひさしを……欄干に添って、廻廊を左へ、角の擬宝珠ぎぼしゅで留まって、何やらほっと一息ついて
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
井欄せいらんに数うる擬宝珠ぎぼしゅを、ほんのりと、さながら夜桜の花の影に包んでいる。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、吃驚びっくりしたように、半ばその美しさを思っていて、じたように、舞台を小走りに西口の縁へげた。遁げつつ薄紫の肩掛で、まげびんおおいながら、曲る突当りの、欄干の交叉こうさする擬宝珠ぎぼしゅに立つ。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
擬宝珠ぎぼしゅを背に控えたが。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)