たずさ)” の例文
旅の暇には、彼はたずさえている書物に読み耽るらしく、手垢てあかで黒くなった四五冊のむずかしい書物が、いつも彼の座右ざうにあるのでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
弓矢をたずさえて来た弟は、郷国くにの常陸には見受けない鳥獣を猟ってその珍しさに日の過ぐるのを忘れていたが、それも飽きていうようになった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勇士これを腕に貫けば身動くごとに鳴る事鈴のごとし。かくて虎のしかばねもしくはその一部をたずさえ諸方を巡遊すれば衆集まり来りてこれを見贈遺多く数日にして富足るとある。
而かも毒薬を買ってたずさえて居たとすれば、益々余の想像の通り人知れずに自殺する為と云う事が事実らしく成って来る、最早此の上を聞くには及ばぬ、早く幽霊塔へ馳せ返って様子を見る一方だ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
砂糖袋かさけたずさえて作が急度きっとともをするのであったが、この二三年商売の方をけなどするために、時には金の仕舞ってある押入や用箪笥ようだんすかぎまかされるようになってからは、不断は仲のわるい姉や
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)