こね)” の例文
お鳥はまたさう思はれたくないので、わざと、義雄の困る樣に、人々の前で、また聽えよがしに、勝手なだだをこねることがある。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
彼方あちらから来ればこねくる奴が控えて居る。何でも六、七人手勢てぜいそろえて拈込ねじこんで、理屈を述べることは筆にも口にもすきはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
鱷は先づ横に銜へてゐたイワンを口の中で、一こね捏ねて、足の方をのどへ向けて、物を呑むやうな運動を一度した。イワンの足が腓腸ふくらはぎまで見えなくなつた。
どうせ終る一生なら両足をばたばたやる子供の駄々をこねるように、この世界に屑の人間の生涯をむしりちらした方が、正直で嘘でない生き方かも知れない。
陶古の女人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そこらの土を子供がこねたように不器用に見える茶碗だった。しかし、その茶碗のいろの中にたたえられている濃い緑の泡つぶは、空よりも静かで深い色をしていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それへ玉子の黄身を二つと塩を小匙に一杯と水を大匙八杯ほど入れて饂飩をねるようによくこねます。これもあったかい日には水で捏ねられますけれども極く寒くなるとお湯で捏ねます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
馬道から竜泉寺の通りへ切れようとしてこね返すような泥濘を裏路伝いに急いでいた。
ああしてこねたりのばしたりしているところを見ると、まるで餅屋だな。……おい、見ろ、むこうの鞴のそばでは、金を水引みずひきのように細長く引きのばして遊んでいる。……さあ、帰ろう。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
台所前の井戸端いどばたに、ささやかな養雞所ようけいじょが出来て毎日学校から帰るとにわとりをやる事をば、非常に面白く思って居た処から、其の上にもと、無理な駄々だだこねる必要もなかったのである。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
で、手の平がなぜ白いかと言いますに、向うでは麦粉をこねる時分に手でもって椀の中でその麦粉を捏る。であるから手の平に付いて居るあかは麦粉の中に一緒に混って入ってしまうんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
見習えよ。いつまでも家臣どもに甘やかされて駄々ばかりこねている和子様であってはならぬぞ。新介の刻苦こっくに見習うて、朝はつとに起き、馬術、弓道の稽古けいこに励み、読書もせねばならぬぞ
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)