拠所よんどころ)” の例文
旧字:據所
そこで、注音字母ちゅうおんじぼでは一般に解るまいと思って拠所よんどころなく洋字を用い、英国流行の方法で彼を阿 Quei としょし、更に省略して阿Qとした。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
拠所よんどころなく雪の道具だけに講釈で聴いて覚えていた「鉢の木」をいい加減にでっち上げて、どうやらこうやらお茶を濁した。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
君江は自分の事から起った騒ぎに拠所よんどころなく、雑巾ぞうきんを持って来て袂の先を口にくわえながら、テーブルを拭いているうち、新しく上って来た二、三人づれの客。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なまけてもいないに出す作がないというと、やはりなまけていたとお思いになるかも知れませんが、私は拠所よんどころないことで人から頼まれたものをやっているのです
源兵衛『そなたが来るのを留守にしたのは、拠所よんどころない若衆会所の相談。それも御門徒の一大事についての談合と、道々も口をすっぱくして聞かしてやったではないか』
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これも拠所よんどころないという風にその話をして、なお田辺へは最近に何百円とかの金の手に入ったのを用立てた、長年弟の世話に成った礼としてそれとなくその金を贈った
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
頑固にも程があると仰しゃいましょうが、其の頃は身分という事がやかましくなって居りまして、お武家と商人あきんどとは縁組が出来ません、拠所よんどころなく縁組をいたす時は
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
工場は隆盛になったけれどマドリッド市中はその代り拠所よんどころない恐怖に包まれて次第に人心が険しくなって夜も十時を過ごした頃には目抜きの町のAE街をさえ人っ子一人通らないようになった。
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
総じて新しい肥料はよくないものだが、自家うちには堆肥たいひの用意がない為に、拠所よんどころなく新しい馬糞に過燐酸かりんさんを混じて使った。麦がえると同時に、馬糞の中の燕麦が生えた。麦がびると、燕麦も伸びた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし、それでも、拠所よんどころない場合で、弟子を断わり切れぬので両三人また弟子を置くようになりました。
だから昔師匠のこしれえてくれたうつわじゃ、お前ってものはもうハミだすようになっちまったんだ。だから拠所よんどころなくほかの器へ入る。それがまた師匠にゃ無体むてい癪に障るとこういうわけなんだ。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
阿Qは拠所よんどころなくたたずんだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
拠所よんどころなくもうあきらめて、貧相でもただ一人で大阪入城とあきらめて参ったところじゃ。行ってくれんか今松さん。尊公なら、わしの戻ったあとも落語家として居残ってって働けようし——
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
で、有金をさらって逃げた二人は、ひとたびお国の郷里越後へ走ったが実家絶えてなく、拠所よんどころなく栗橋まで引き返してきたとき、飯島に突かれた傷が痛みだし源次郎はドッと寝込んでしまった。
拠所よんどころなく西黒門町の青物屋八百春へ奉公にだしてやった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)