手心てごころ)” の例文
いくら其の時代だからといって、芝居や講釈でする大岡さばきのように、なんでも裁判官の手心てごころひとつで決められてしまっちゃあ堪まりません。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぬけぬけと、やかましい。こうおさえ付けるこの方に対しても、そちの手脚のもがきには、どこか侍の手心てごころがある。——こやつ! この面構つらがまえを
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして会員中には主人も妻君も娘も息子もなるべくは独身者も多く加えて、此方こっち手心てごころで招待状を発したらば好き自由な人物を聚める事が出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その姿は三十前後の、充分分別のある、しっかりした一人ひとりの女性を思わせた。貞世もそういう時の姉に対する手心てごころを心得ていて、葉子から離れてまじめにすわり直した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
馭者ぎょしゃは、秀作しゅうさくさんにいわれてから、うまにむちをあてるのも、手心てごころしているようにみられたのです。やまのいただきにしろくもがわいて、とおくのほうで、かみなりのおとがしました。
しらかばの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いずれも竹の先を曲げて物をき込む形となって縁起を取るのであるが、その曲げようにも、老人の語る処によると、やはり手心てごころがあって、糸などを使って曲げをっていたり
飼う手心てごころもわきまえませんもので、正直なところ、荷厄介で弱っておりますよ
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)