慾目よくめ)” の例文
娯樂ごらくものの講談かうだんに、近頃ちかごろ大立おほだてものの、岡引をかつぴきが、つけて、つて、さだめて、御用ごようと、ると、幽靈いうれいは……わかをんなとはたものの慾目よくめだ。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
同役への義理である。森岡丹後も親の慾目よくめから末子の丹三郎をそれほど劣った子とは思っていないらしく
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そんな調子に、筑阿弥ちくあみは絶えず口ぎたなく日吉をこき使ったが、母の甘い慾目よくめばかりでなく、実際、寺から帰って来た後の日吉は、生れ変ったようによく働いた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親の慾目よくめかは知れませんが、師匠のお手本によって描いたものを見ましてもくまあこんなに描けるものだと思ったこともありまして、子供の前ではいえないことだが
午飯ごはんをしまつて少し過ぎると、二人の従妹いとこが参り升たから蜀畑たうもろこしばたけを見せ、手製のちんを見せると、二人は慾目よくめで見る私さへ満足するほどに賞揚ほめそやしてくれ升て、私も大分得意になり
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
器量のいい赤ん坊でなかった事が不幸ではあったけれど、千穂子自身は、生れた赤ん坊に、一ヶ月近くもなじんで来ると、器量なぞのよしあしなぞ親の慾目よくめで考える事も出来なかった。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
いかなる場合にもまだどこかの谷陰たにかげに、きて時節を待っているものと、想像してみずにはいられなかったでもあろうが、単にそのような慾目よくめからでなくとも、現実に久しい歳月を過ぎてのち
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これもだと思いまする年寄の慾目よくめ、人ごとながら自惚うぬぼれでございましょう、それで附かぬことをお話し申しますようではございますけれども旦那様、後生でございます
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戦の統率とうそつぶりも養父おや慾目よくめばかりでなく大出来でした。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)