悵然ちやうぜん)” の例文
(歐洲人は思郷病は山國の民多くこれをわづらふとなせり。)されど又ヱネチアのわが故郷ならぬを奈何いかにせむ。われは悵然ちやうぜんとして此寺の屋上やねより降りぬ。
涼風は漣漪さざなみを吹きよせたり、渚のさざれは玉よりも滑かなり、眠れる渡守を呼び醒し悵然ちやうぜんとして独り城山に対す。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
と、ちからのない、わらひかげかべて、つて、悵然ちやうぜんとしてあふいで、ひたい逆立さかだ頭髪とうはつはらつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
書してここに至り吾人は実に悵然ちやうぜんとしてうたた大息を禁ずる能はざる者に候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
名前もわからない芸者に口がかけられないのは、まだ日本の土を踏んでもない彼といへども明白である。彼は床の上に坐つた儘、着換をする元気も失つて、悵然ちやうぜんいたづらに長い手足を見廻した。——
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
青年は悵然ちやうぜんとしてさう云つた。心の中の同情が、言葉の端々に溢れてゐた。さう云はれると、美奈子も、自分の寂しい孤独の身の上が顧みられて、涙ぐましくなる心持を、抑へることが出来なかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
但馬守たじまのかみ悵然ちやうぜんとして天井てんじやうあふいだ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
上甲板の欄干にりて秋天一碧しうてんいつぺきのあなた、遠く日本海の西の波に沈まむとする落日を眺めつゝ、悵然ちやうぜんたる愁懐を蓬々ほうほう一陣の天風に吹かせ、飄々何所似へうへうなんのにたるところ天地一沙鴎てんちいちさおうと杜甫が句を誦し且つ誦したる時
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
母は、かう言つて悵然ちやうぜんとしたが、また直ぐ言葉を続けた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)