思起おもひおこ)” の例文
加ふるに、この海辺うみべのホテルは家具の質素な西洋室である為、其の周囲の光景が自分にはまた特別の事件を思起おもひおこさせるのであつた。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これで思起おもひおこすのは、陰暦の二月すゑには、既に韮がえ、木の新芽がせんに供し得る程になつてゐるといふことである。それから、『わらび漬』などとあるのも少年の頃をしのばしめるのであつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
長吉ちやうきち後姿うしろすがた見送みおくるとまたさらうらめしいあの車を見送みおくつた時の一刹那せつな思起おもひおこすので、もうなんとしても我慢がまん出来できぬといふやうにベンチから立上たちあがつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それのみならず去年の夏のすゑ、おいと葭町よしちやうへ送るため、待合まちあはした今戸いまどの橋からながめたの大きなまるい/\月を思起おもひおこすと、もう舞台は舞台でなくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
鉄橋と渡船わたしぶねとの比較からこゝに思起おもひおこされるのは立派な表通おもてどほりの街路に対して其の間々あひだ/\に隠れてゐる路地の興味である。擬造西洋館の商店並び立つ表通は丁度ちやうど電車の往来する鉄橋のおもむきに等しい。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)