往来みち)” の例文
旧字:往來
とりこにしてある沢山の植木——ほうかえでが、林のように茂っている庭の向うが、往来みちになっていて、そこで、数人の者が斬合っていた。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
久助は、長いこと往来みちに立ちつくしていた。そうやって、お駒ちゃんの残したことばを、あたまの中でかんでいるようなようすだった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さきにたむろしていた正季の兵に、また正成の七百騎が到着したので、たちまち往来みちも木蔭も馬息うまいきれと人影でうずまった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その、小石さえ数えられる明るい往来みちのむこうに、細長い影を斜めに倒して、泰軒と栄三郎の並んでゆくのが、小さく、だがハッキリと見える。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自身気違いの戸野兵衛とのひょうえは、十一月の寒風に吹かれながら、大和十津川の自分の館から、往来みちへ走り出してそう喚いた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうよ。戸締まりをしていたのだ」久助は、娘に対してこころよくないようすである。「往来みちの真ん中で立ち話もできめえ。どこか行くところねえのか」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
往来みちの左右の海鼠壁よりも高く、月夜の空の方へ葉や枝を延ばし、車の揺れるに従って、それをユサユサと揺する様子は、林が歩いてでも来るようであった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
耕地からも往来みちからも家々からも、居酒屋からも、花園からも、大人や子供や男や女が、一度にときを上げて集まって来て、四挺の駕籠を取り巻いてしまった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
往来みちを横切ろうとした。その上へ、馬が来た。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
往来みちは橋から左へ曲がるので、彼も道なりに左の方へよろめき乍ら歩いて行った。と又一つ橋がある。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「残念だがもうしかたがない。これ以上は俺には追って行かれない」——で、金兵衛はグタグタになって、往来みちの上へ両膝をついて、首をうなだれて太い息をついた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「智謀智謀と偉そうに云うが、智謀が往来みちにころがってはいまいし、そうそう目付かるものではない。……それともそなたによい智謀があらば、ちゃっと披露するがよいわえ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私が今しがた此美青年を三度見掛けたと云ったのも、つまり遠乗りに出て行く姿を往来みちを歩きながら見掛けたのであって、そう云えば私も最う一度だけ此青年を見掛けたことがある。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小路を抜けると柳町通り、南北に一筋広い往来みちが、真っ直ぐに人気なく延びていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時から半刻はんときばかり経った時、龕燈の光で往来みちを照らしながら、老人と少年と女猿廻しとが、秋山様通りの辺りを通っていた。昨夜ゆうべ御用地の林の中にいた、その一組に相違なかった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかるに左衛門には、左門という忰があって、「父上を自害させたのは忠右衛門である」と云い、遊学先の江戸から馳せ帰り、一夜、忠右衛門を往来みちに要して討ち取り、行衛ゆくえくらました。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
美作をさえぎって往来みちの中央へ、たむろするようにたたずんでいる、十人の一団は武士が四人に駕籠舁かごかきが二人に女が四人という、まことに変わった一団であって、武士はいずれも年が若く
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今日が今年の初雪で、小降りではあるが止む時なくさっきからひまなく降り続いたためか、往来みちほのかに白み渡り、人足絶えて寂しかったが、その地上の雪を踏んでシトシトと駕籠がやって来た。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
往来みち中央まんなかで人目も恥じないで、一つの包物を取ろう取られまいと、捻じ合いひしめき合っているのであるから、往来ゆききの人達は足を止め、店から小僧や下女や子供や、娘やおかみさんや主人までが
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
往来みちを掃いていたのでございますよ。へい、家の前の往来なので」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし見れば往来みちの一所に、黒い大きな斑点が出来ていた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その同じ新八郎が、ある夜往来みちで声をかけられた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ポンポンと黐棹を往来みちへ立てた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)