彼樣あゝ)” の例文
新字:彼様
『むう、斯の手紙はなか/\好く出來た』なんて小父さんは私を勵ました後で、是處は斯う書けとか、彼處は彼樣あゝ直せとか言つて呉れました。
『ほんとはそれ許りぢやありませんの。若しか先生が、私に彼樣あゝ言つて置き乍ら、御自分はおりにならないのですと、私許り詰りませんもの。』
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
全くは私に御飽きなされたので此樣かうもしたら出てゆくか、彼樣あゝもしたら離縁をと言ひ出すかといぢめて苦めて苦め拔くので御座りましよ、御父樣も御母樣も私の性分は御存じ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此盛岡に來たのは、何日いつからだか解らぬが、此頃は毎日彼樣あゝして人の門に立つ。そして、云ふことが何時でも『おだんのまうす、腹が減つて、』だ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
まつたくはわたし御飽おあきなされたので此樣こうもしたらてゆくか、彼樣あゝもしたら離縁りゑんをとすかといぢめていぢめていぢくので御座ござりましよ、御父樣おとつさん御母樣おつかさんわたし性分せうぶん御存ごぞん
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
遠く過去つた記憶を辿つて見ると、私達の世界は朦朧としたもので、五歳いつつの時には斯ういふことが有つた、六歳むつつの時には彼樣あゝいふことが有つた、とは言へないやうな氣もします。
斯樣こんな宿ぢや解らないサ。」とK君は笑つた。「料理屋へでも行つて飮食のみくひして見なけりや——僕はよく左樣さう思ふよ、其土地土地の色は彼樣あゝいふ場所へ行つて見ると、一番よく出てる。」
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其昔、町でも一二の濱野屋の女主人として、十幾人の下女下男を使つた祖母が、癒る望みもない老の病に、彼樣あゝして寢てゐる心は怎うであらう! 人間の一生の悲痛が時あつて智惠子の心を脅かす。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから三十年あまりの今日まで、どうかして私は彼樣あゝいふ味噌汁を今一度吸ひたいと思つて、幾度同じやうに造らせて見るか解りませんが、二度と彼の味を思出させるやうなのには遭遇であひません。