引断ひっちぎ)” の例文
旧字:引斷
振放すはずみ引断ひっちぎった煙草入、其の儘土手下へ転がり落ちた、こりゃたまらぬと草へつかまってあがって見たら、何時いつの間にか曲者は跡をくらましてしまう。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
宿墨を洗う気で、楊枝の房を、小指をねてむしりはじめたが、何をれたか、ぐいと引断ひっちぎるように邪険である。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火事の最中、雑所先生、はかま股立ももだちを、高く取ったは効々かいがいしいが、羽織も着ず……布子の片袖引断ひっちぎれたなりで、足袋跣足たびはだしで、据眼すえまなこおもてあいのごとく、火と烟の走る大道を、蹌踉ひょろひょろ歩行あるいていた。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引断ひっちぎれたやうに残つて、あわせはのけざまにずる/\とたたみの上を引摺ひきずらるゝ、わきあけのあたり、ちら/\と、のこンの雪も消え、目も消えて、すその端がひるがへつたと思ふと、さかしまに裏庭へ引落ひきおとされた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)