引擦ひっこす)” の例文
女中か、私はね、雪でひとりでに涙が出ると、っと何だか赤いじゃないか。引擦ひっこすってみるとお前、つい先へ提灯ちょうちんが一つ行くんだ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
市郎はいて又燐寸を擦ったが、胸の動悸に手はふるえて、幾たびか擦損すりそんじた。彼はいよいれて、一度に五六本の燐寸を掴んで力任せに引擦ひっこすると、火はようやく点いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
爺さんは、先刻さっき打撲くらわされた時怪飛けしとんだ、泥も払わない手拭てぬぐいで、目をくと、はッと染みるので、驚いてあわただしいまで引擦ひっこすって
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と思込んだ顔をもたげた、主税はまぶた引擦ひっこすって、元気づいたような……調子ばかりで、一向取留の無い様子、しどろになって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
原稿を十四五枚、言託ことづけただけで帰ろうと思うのを、「どうぞ、」と黙って入ってしまった。ほこりだらけの足を、下駄へ引擦ひっこすったなり、中二階のような夏座敷へ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と分らぬながら身につまされて、爺さんはがっくりとしゃがんで俯向うつむき、もう一度目を引擦ひっこすって
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを掻払かいはらうごとく、目の上を両手で無慚むざん引擦ひっこすると、ものの香はぱっと枕にげて、縁側の障子の隅へ、音も無く潜んだらしかったが、また……有りもしない風を伝って、引返ひっかえして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と庖丁のさきを危くすべらして、鼻の下を引擦ひっこすって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と手の甲で引擦ひっこする。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)