引切ひっき)” の例文
しかも今度のは半分に引切ひっきってある胴から尾ばかりの虫じゃ、切口があおみを帯びてそれでこう黄色なしるが流れてぴくぴくと動いたわ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうしてまたにわかの出来事に無数の悪魔が駈出して来た様な、にくにくしい土色した雲が、空低く散らかり飛び駈けって、引切ひっきりなしに北の方へ走り行く。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
寝ようと思っても引切ひっきりなしに廊下にひゞきます草履の音が耳につき、何うしても寝られるものでありません。
とりあえずテグス引切ひっきってみればタッタ今まで使ったものかどうかは吾々の眼に一目瞭然なんだが……爆弾船ドンぶねに無くてはならぬ巻線香だって、イザという時に海に投げ込めばアトカタもない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小盾こだても見えず、姿見をかたわらに、追って出る坊主からかばうのに、我を忘れて、帷子かたびらの片袖を引切ひっきりざまに、玉香を包み、信女をおおうた。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
解くにも、引切ひっきるにも、目に見えるか、見えないほどだし、そこらは暗し、何よりか知ったとこ洋燈らんぷの灯を——それでもって、ええ。……
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
影を引切ひっきるようにと過ぎる車のうしろを、トンとたたいたと思うと夜の潮に引残されて染次は残ってしょんぼりと立つ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一言ひとこと、その窈窕たる淑女は、袖つけをひしと取って、びりびりと引切ひっきった。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの声がキイと聞えるばかり鳴きすがって、引切ひっきれそうに胸毛を震わす。利かぬ羽をうずにして抱きつこうとするのは、おっかさんが、はしを笊の目に、その……ツツと入れては、ツイと引く時である。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身悶みもだえして引切ひっきると、袖は針を外れたが、さらさらと髪が揺れ乱れた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)