廻転かいてん)” の例文
旧字:廻轉
あわれ稀代きだいの殺人魔「人間豹」も、もはやのがれるすべはなかった。ロクロの廻転かいてんにつれて風船の綱はみるみる縮まって行く。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
梶は、廻転かいてんしている扇風機の羽根を指差しぱッと明るく笑った栖方が、今もまだ人人に云いつづけているように思われる。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
女はもう傍へ来ていて廻転かいてん椅子の口をこっちに向けて勧めた。謙作はそれに腰をかけて鉢の微白ほのじろい花に眼をやった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が、「太陽は西に沈み」と言う代りに「地球は何度何分廻転かいてんし」と言うのは必しも常に優美ではあるまい。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
地球の廻転かいてんか何かに今まで知られなかった特異の現象が隠されているのか、あるいは何か卵のもつ生命に秘められた神秘的な力によるということになるであろう。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そのずっと上流のところでごとごとと古い水車を廻転かいてんさせていたところの、あの小さな流れであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
曲げた腕をばしたり、縮ましたりすると、力瘤がぐるりぐるりと皮のなかで廻転かいてんする。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
箱のなかには車があって、それがハンドルの廻転かいてんにつれてまわるようになっており、それと共に調帯が硝子ガラスの円筒と銀箔ぎんぱくの貼ってある板とを摩擦して電気をおこす仕掛けになっています。
平賀源内 (新字新仮名) / 石原純(著)
頭脳がぐらぐらして天地が廻転かいてんするようだ。胸が苦しい。頭が痛い。脚のふくらはぎのところが押しつけられるようで、不愉快で不愉快でしかたがない。ややともすると胸がむかつきそうになる。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
廻転かいてんドアの客の出入りも少くなり、その代り、詰めに詰め込んだという座席の客は、いずれもこの悪魔的の感興の時間に殉ずる一種の覚悟と横着とを唇の辺にたたえ、その気分の影響は
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それに反して精悍せいかん猛虎もうこは、長い尾をクルックルッと表情たっぷりに廻転かいてんさせながら、首を低く、身を縮めて、襲撃の前奏曲、低いうなり声をゴロゴロと鳴らしている。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宇宙の廻転かいてんさえも、及び他の一切の摂理にまで交渉し得る能力を持っているとするならば、われわれの文学に対する共通の問題は、一体、いかなる所にあるのであろうか。
無論一つ問題をぐるぐる廻転かいてんさせるだけで、ほかに何の効力もなかったのです。私は突然Kが今隣りの室で何をしているだろうと思い出しました。私は半ば無意識においと声を掛けました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梶は、問うまいと思っていたことも、ついこんなに、話題をらせたくなって彼を見た。すると、栖方は「あッ、」と小声の叫びをあげて、前方の棚の上に廻転かいてんしている扇風機を指差した。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼らははるかの地底から聞こえてくる、蘭子のゾッとするような悲鳴を耳にした。夾竹桃きょうちくとうの咲き乱れた舞台面は、映写機の廻転かいてんが停止したように、しばらくのあいだ、ヒッソリと静まり返ってしまった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
全身にあふれた力がみなぎりつつ、頂点で廻転かいてんしている透明なひびきであった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)