平土間ひらどま)” の例文
平土間ひらどまの大部分は俗に“追い込み”と称する大入り場であったから、腰弁当で出かければ木戸銭のほかに座蒲団代の一銭と茶代の一銭
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
賑座には、紅黄白紫のハンケチがいつも平土間ひらどまを埋めてい、贔屓役者に奇声のこもった声援を送っていたものである。
芝居へ入って前の方の平土間ひらどまへ陣取る。出方でかたは新次郎と言って、阿久の懇意な男であった。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただ停車場ステーションが一つある。北京ペキンへの急行が出るとか云うので、客がたくさん列車に乗り込んでいる。下等室をのぞいたら、腰かけも何もない平土間ひらどまに、みんなごろごろ寝ころんでいた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この芝居へも母に連れられて見に行ったものの、平土間ひらどまはもとよりどの桟敷も超満員で、その上に入り込むだけの余裕がない。なんでも座頭ざがしらの席とかで、正面の高いところへ無理に押し上げられた。
煙草タバコは終生まなかった。遊山ゆさんなどもしない。時々採薬に小旅行をする位に過ぎない。ただ好劇家で劇場にはしばしば出入でいりしたが、それも同好の人々と一しょに平土間ひらどまを買って行くことにめていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
水を汲み出せ、平土間ひらどまの、田舍芝居の韮畑にらばたけ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
それは十一月のなかば過ぎから開場した芝居で、わたしは松居松葉まついしょうよう岡鬼太郎おかおにたろう鏑木清方かぶらぎきよかたの諸君と、たしかその四日目を平土間ひらどまで見物したように記憶している。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
花道から平土間ひらどまますあいだをば吉さんの如く廻りの拍子木の何たるかを知らない見物人が、すぐにも幕があくのかと思って、出歩いていたそとから各自の席に戻ろうと右方左方へと混雑している。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
第一は入場料がその時代として滅法界めっぽうかいに高いことで、桟敷さじき一間ひとまが十三円八十銭、平土間ひらどまは二人詰めで一間四円五十銭というのであるから、団十郎が見たい見たいと言いながらも
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
花道はなみちから平土間ひらどまますあひだをばきちさんのごと𢌞まはりの拍子木ひやうしぎなにたるかを知らない見物人が、すぐにもまくがあくのかと思つて、出歩であるいてゐたそとから各自の席にもどらうと右方左方うはうさはうへと混雑してゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)