巌窟がんくつ)” の例文
旧字:巖窟
六六 同じ山の附馬牛よりの登り口にもまた安倍屋敷といふ巌窟がんくつあり。とにかく早池峰は安倍貞任にゆかりある山なり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
身を投じた紫玉の助かつて居たのは、霊沢金水れいたくこんすいの、巌窟がんくつの奥である。うしろは五十万坪ととなふる練兵場れんぺいじょう
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
巌窟がんくつにとじこめられて三年、今では、荒れ果てた曠野こうやに捨てられ、一本足の身で生きています。たとえこの身は胡の国で死んでも、魂は決して君のお側を離れぬつもりです」
其様そんなことを否認などしては国家の組織は解体するのであるから、巌窟がんくつに孤独生活でも営んでいる者で無い限りは犠牲ということを疑ってはならぬのが、人間世界の実状である。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は三十人の壮士をすぐって、武器をたずさえ、糧食を背負い、巌窟がんくつね、野原で食事をして、十日あまりも進むうちに、宿舎を去ること二百里、南のかたに一つの山を認めた。
秘密の潜んでいる巌窟がんくつの奥をきわめでもするように、つかつかと進んで行ったが、つきあたりの通りへ出ると、思いがけなくも、其処は毎晩夜店の出る下谷竹町の往来の続きであった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一度山荘へ遊んだことのある博士は、其れが山腹の自然せきを切り開いた大巌窟がんくつである事を僕等に語つて是非ぜひ見て置けと言はれる。其れで馬車代だけは僕等三人で負担する事に決めて同行を約した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今一つ鎌倉の迷信を申さば、銭洗ぜにあらい弁天の一話である。鎌倉の山の手の方に佐助稲荷があるが、その手前の巌窟がんくつの中に小さき石像の弁天を安置している。その前に清水の満ちたる小さき井戸がある。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
第百五十四回 龍樹菩薩りゅうじゅぼさつ坐禅ざぜん巌窟がんくつ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
巌窟がんくつ聖人しょうにんは酒杯を得て
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
信州木曾の金時山きんときやまなどでは、現に金時母子のんだという巌窟がんくつ、金時が産湯うぶゆをつかったという池の跡のほかに
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
或夜山に入りけるに、月の光も薄く、木立も奥暗き岨陰より、何とも知らぬ者駆け出で、久太夫が連れたる犬を追掛け、遙かの谷に追落して、傍なる巌窟がんくつにかけ入りたり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かの者等は何事か語り合ひしが、やがて九助を小脇こわきにかゝへ、嶮岨けんそ巌窟がんくつの嫌ひなく平地の如くに馳せ下り、一里余りも来たりと思ふ頃、其まゝ地上に引下して、たちまち形を隠し姿を見失ひぬ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)