岐路きろ)” の例文
さらぬだに余がすこぶる学問の岐路きろに走るを知りて憎み思いし官長は、ついにむねを公使館に伝えて、わが官を免じ、わが職を解いたり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ここは岐路きろになっているが、ここまではどうしても一本道。いやでも応でも、天堂一角やあの駕が、目の前を通りかかる筈である。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いろいろ考えて見ると。実は岐路きろ彷徨ほうこうしておるようなわけで。婚儀のことは親父の病気を幸いにずるずるとのばしているようなわけで。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
「意識して求める方向に求めるものを得ず、思い捨てて放擲した過去や思わぬ岐路きろから、突兀として与えられる人生の不思議さ」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
このとき羊犬が迷った羊にえつき、各個の羊をその群れより離散せぬようにまとめると同じく、世評なるものは、我々が得意になり、あるいは岐路きろに迷わんとするとき
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
光明か暗黒かの岐路きろに立つものだが、読者が、これまで、いくぶんせっかちだと思われるほどの気持になって知りたがっていたのも、恐らく彼のそうした生活であったらしく私には思われる。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私は感情の激昂げっこうに駆られて、思わず筆を岐路きろに入れたようでございます。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
われは大いなる三つの岐路きろでたり。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その昔、お千絵殿の父世阿弥よあみ殿から、少しの恩義をうけたのに感じて、こうまで義理を尽くしたのは見上げた男。弦之丞が岐路きろの迷いを
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらぬだに余がすこぶる学問の岐路きろに走るを知りて憎み思ひし官長は、遂に旨を公使館に伝へて、我官を免じ、我職を解いたり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
今ここに一人の青年が死か生かの岐路きろに立っている。見ごろしになし得ない仏者である自分にも、この青年をすくうて取らす力がない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれにしろ、長途の戦い出先に、突然、主君の信長公を失った三万の秀吉軍は、あの水中の小城以上、今は危ない岐路きろにある。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長に面罵めんばされ、饗応きょうおうの役を褫奪ちだつされ、憤然、安土あづちを去って、居城亀山へ去る途中、幾日もここに留まって、悶々もんもん、迷いの岐路きろに立ったものだが——
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日までの信念をあくまで歩みとおすか「加古川の沙弥」の行った道を歩くか、その岐路きろに立っている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、その三としては、根本的な彼のはらの問題になる。つまり積極か消極か。攻勢をとるか、守勢を選ぶか。御坊塚へ進出する直前まで、彼の大方針は多分に、岐路きろを決していなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きな運命の岐路きろに立たされたかたちである。しかし他人の鄒淵、鄒潤さえも弟に組みしてくれたという。実兄として見ていられようか。かつは奉行所内部の腐敗にもほとほとあいそがつきてくる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大府大番頭だいふおおばんがしらの家名をけがすまいとおもい、また私の両親や兄弟はらからたちにき目を見せたくないばかりに、恋を捨て武士を捨て、血もなみだもない懦夫だふとなり終っていたが、今こそ、岐路きろに立った弦之丞は
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾つもの岐路きろに立つごとに、行き迷っている様子。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とも考えられ、岐路きろの運命にあるものだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)