しっぽ)” の例文
「でもね姉さん。晩はコワくてこまるの。誰も起きていないのに本堂でたくが鳴るんだもの。お父さんにきくと、鼠がふざけてしっぽで鐸を叩くんだって——。」
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼女の話は、頭ばかりが大袈裟でしっぽがすっと消えていた。村田のこともそうだった。写真のこともそうだった。そして両方とも、彼はすっぽかされてしまった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ねぎきっても人参にんじんや大根を切ても頭としっぽの捨てるような部分を掃溜はきだめへ捨てないでスープの中へ入れる。そうして火鉢の火のいている時は夜でも昼でも掛け通しておく。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのうちあなたはひげを見つけてびっくりするのよ。それからあなたは、耳を見つけ出し、こんどはまたしっぽを見つけ出して、びっくりするのよ。そしてあなたは私に言うの、あらまあ! って。
『松浦肥前守の家来。——こうおれが答えると、吉良殿がかさねて、御姓名はという。ここでしっぽを出してはと、いや、姓名を聞え上げる程な者でござらぬ——と軽く逃げてはずしてしまったのだ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冒険者アドヴェンチュアラー」と、頭もしっぽもない一句を投げるように吐いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姉はおかしな調子で云い捨てて、まだぴんぴんしてる太刀魚を、しっぽでぶら下げながら飛んでいった。
月明 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
... 大根や牛蒡ごぼうの頭としっぽまで万年スープの材料にする位だから払溜はきだめへ入る者は全くのかすばかりだよ」と滔々とうとうたる説明に小山も漸く納得し「僕の家でも早速この新式の火鉢を造らせよう」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)