たふと)” の例文
自殺は自ら殺すものにして人に害を与ふるものならず、人は之をたふとぶべきに、かへつて人を害したる後に自ら殺すを快とす、奇怪なるかな。
復讐・戦争・自殺 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
試みに之を歴史に徴すれば述而不作、信じていにしへを好みし儒教に次で起りしものは即ち黄老くわうらうの教也。東漢名節をたふとび三国功業を重んぜし後は即ち南北二朝の清談也。
凡神的唯心的傾向に就て (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
末の末まで共に好かれと兄弟の子に事寄せてたふとい御経を解きほぐして、噛んで含めて下さつた彼御話に比べて見れば固より我は弟の身、ひとしほひとに譲らねば人間ひとらしくも無いものになる
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わが武をたふとべる、わがはかなき草紙の裏に筆戰墨鬪の庭を設けたり。彼は積極なる教育の道をめれば、陳列して審査せざるかたむきあり。かるが故に世には早稻田文學を講義録のみなりといふものあり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
新体詩人の推敲すゐかう百端、未だ世間に知られずして、堕落書生の舌に任じて発する者即ち早く都門を風靡ふうびす、然る所以の者は何ぞや、亦唯耳をたふとぶと目を尚ぶとに因るのみ
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
徳川氏の時代にかなふべきものにあらざれば、文学として世にたふとばるべからざるが如き観をなせり。
奇なるかな一は侠勇を尊び、一は艶美をたふとびて、各自特異の旗幟きしてたるや。その始めは、共に至粋の宿れるなり、だ一は之を侠勇に形成し、一は之を艶美(所謂粋)に形成したるの別あるのみ。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)