小筥こばこ)” の例文
玉枝は、父子おやこ喧嘩を取做とりなすようにそう言って、帛紗ふくさから出した小筥こばこを、卓の端にのせた。古代蒔絵こだいまきえとろけそうな筥である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と団さんは将来を戒めて、小筥こばこに入れた品物を二人に返した。田口さんの虎はその儘お父さんのネクタイと三輪さんの袖口から日本全国を遊覧することになった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼女はそれから、小筥こばこの中からそっと取りだした一枚の紙片を、鳩の足にゆわえつけると、庭へ出て、一度強く鳩を胸に抱きめながら、頬をつけてから手を離した。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
私の心臓の小筥こばこのなかへ、あの方を胡蝶こちょうのようにとりこにしよう。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
文字ほそく君が歌ひとつ染めつけぬ玉虫たまむしひめし小筥こばこふた
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
地の底の小筥こばこに入れたのか?
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
彼がとった道筋は、この前、玉枝が自身で、秘密の小筥こばこを抱えて、含月荘を訪れたあの坂本道と、変らなかった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母が新妻時代にでも使ったらしい鼈甲べっこうくしこうがいやらかんざしなどを入れた小筥こばこと、ぼくの顔とを、質屋の主人にじろじろ見くらべられて、顔を真っ赤にしたばかりでなく
「貴様は、江戸表から小筥こばこを持って来たな。そしてそれを、含月荘の大村郷左衛門の手へ届けたな」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
介三郎はあわてて、打粉ぶくろを小筥こばこにしまい、刀を拭いて、鞘におさめた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「鳥羽へ参るには、どの道をどう参ったらよいでござろうか」何気なく方角を指さして教えていると、四郎は、その侍が胸に革紐かわひもでかけている小筥こばこをいきなりムズとつかんで、りあげた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「や。お待たせした」侍従介は、やがて何やら、小筥こばこを持って入ってきた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、銘木の小筥こばこ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)