寝相ねぞう)” の例文
母はいつもと同じように右の肩を下に、自分の方を向いて、少し仰向あおむき加減に軽く口を結んでいかにも寝相ねぞうよくすやすやと眠っている。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お庄は叔父の寝相ねぞうを真似をしながら、「どうすればあんなに正体なくなるんでしょう。」といってまだ笑っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あいつであったとしても、あいつが果して、どういう寝相ねぞうをしている。そんなことを思うと、胸がむかむかする。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鬼が出るという古廟に泊まると、その夜なかに寝相ねぞうの悪い一人が関羽かんうの木像を蹴倒けたおして、みんなを驚かせましたが、ほかには怪しい事もありませんでした。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「種ちゃんはあんなところへ行って、ころがってる——仕様が無いナア、皆な寝相ねぞうが悪くて」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふたりが痴話ちわけているまン中の部屋で、ひとりちょかいみたいな寝相ねぞうをして、朝の鏡に目をこすり「わるい悪戯いたずらをしやあがる」と顔の墨汁すみをあらい落して怒らぬところもあった男だ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうという字は木篇に目の字を書きますが、坐相ざそう寝相ねぞうなどゝいいまして、相の字は木へ目を附けた心だといいますが、御婦人の寝相が能くなくってはいけません、男の坐相のいのは立派なもので
お浜はいま夫の魘される声に夢を破られて、夫の寝相ねぞうを見ると何とも言えず物すごいのであります。すさまじいうなりと歯をむ音、けての中に悪魔の笑うようにも聞えます。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また、何を歌ったり舞ったりしたことか、わきまえている者はほとんど幾人もなかったろう。やがての果ては型の如く、手枕、大の字、思い思いの寝相ねぞうして、そこの広間に酔いつぶれていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)