寛々かんかん)” の例文
これが、ゆっくりと、寛々かんかんと、まるで象がうなずいて、また鼻を退く、そのように、立てた六、七吋ばかりの高さの丸太を、ちょいとやる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
どうかすると、庭と申そうより、寛々かんかんとした空き地の広くおありになる宮よりは、もっと手入れが届いて居そうな気がする。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
むしろ、岐阜ぎふ城へすわってからは、寛々かんかんたる春日を送っていた。以前のように、鷹狩やまた、夜の踊などには出かけないが、いつも君側は静かである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柱にもたれて身は力なくさげたるかしら少しあげながらにらむに、浮世のいざこざ知らぬ顔の彫像寛々かんかんとして大空に月のすめごとたたずむ気高さ、見るから我胸の疑惑はずかしく、ホッと息き、アヽあやまてり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
早く早くとわめくを余所よそに、大蹈歩だいとうほ寛々かんかんたる老欧羅巴エウロッパ人は麦酒樽ビイルだるぬすみたるやうに腹突出つきいだして、桃色の服着たる十七八の娘の日本の絵日傘ゑひがさオレンジ色のリボンを飾りたるを小脇こわきにせると推並おしなら
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
寛々かんかんたる物腰である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
安土の殷賑いんしん二十日はつか正月を過ぎても衰えは見えない。旅客の往還と、参府帰府の諸侯は相かわらずはげしいし、街道にお使番の早馬や、他国の使臣の寛々かんかんたる歩みを見ない日もなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初めてつけたこの麻の支那服の著心地きごこちのいいことは、実に寛々かんかんとしてさばさばしている。その薄藍いろの上衣には唐草模様のボタンどめが鮮かな黄の渦巻をなしている。五つも六つものポケットだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
殿下も白木の壇上の白木のあの卓子に、おん身を、そのお椅子を寛々かんかんと進めたもうたことであろう。そうして遠い白樺の林のかがやきを、牧草の一面の微風を、なんと御覧遊ばしたであろうか。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ゆうべ、姫路まで急いで来たが、今朝の官兵衛は、寛々かんかんたるものだ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村はずれのほうへ、後ろ姿を見せて、寛々かんかんと歩いてゆく。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自斎は寛々かんかんたる例の姿で、道中を急ぎながら考えた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)