孵化かえ)” の例文
……きっと卵が孵化かえりかけているのに違いない。そうして中に居る或る者が殻を破り得ずに苦しがっているのに違いない……と思って……。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
鶏でも家鴨あひるでもうずらでもつばめでも何の卵でも好き自由に孵化かえります。玉子五十個入で三十円も出せば軽便なのがあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
丁度上州一円に、春蚕はるご孵化かえろうとする春の終の頃であった。山上から見下すと、街道に添うた村々には、青い桑畑が、朝靄あさもやうちに、何処どこまでも続いていた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もとより人里には遠く、街道はずれの事なれば、旅の者の往来ゆききは無し。ただ孵化かえり立のせみが弱々しく鳴くのと、山鶯やまうぐいすしゅんはずれに啼くのとが、れつ続きつ聴えるばかり。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
もしもその町内の親爺株おやじかぶの人の例えば三割でもが、そんな精密な地震予知の不可能だという現在の事実を確実に知っていたなら、そのような流言の卵は孵化かえらないで腐ってしまうだろう。
流言蜚語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「産卵期になると海へ下って、何十尋という深い底へもぐり、其処で卵を産むものなんだ。その孵化かえった奴が鉛筆位の大きさになると、群をなして川を溯るんだよ。面白いじゃないか。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
人間から孵化かえりかけている。人間からふわり/\脱け出しかけている。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は眠い時に本を読む人が、眠気ねむけに抵抗する努力をいといながら、文字の意味を判明はっきり頭に入れようと試みるごとく、呑気のんきふところで決断の卵を温めている癖に、ただうま孵化かえらない事ばかり苦にしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
初めて卵から孵化かえった生物いきもののように、息を詰めて眼ばかりパチパチさして、口の中でオズオズと舌を動かしていた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自動調温器があって少しれれば素人しろうとにでも卵が孵化かえせるから外国人の家では折々この料理が出来るようになった。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
中川「産むとも、ヒョコヒョコ産むよ。その代り母鶏おやどりに抱かせても孵化かえらない。試みに雌鶏ばかり飼っておいてみ給え、雄鶏がいなくとも玉子を産むよ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女の子の遊び事にしても玉子を孵化かえして雛にしたり雛を育てて大きくしたりする事は高尚こうしょう優美なたのしみを与えて自然と科学上の智識を覚えさせるようになります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)