奸譎かんけつ)” の例文
同時に又是等の人々の中に、貪慾なる、奸譎かんけつなる、野卑なる、愚昧なる、放漫なる、が、常に同情を感ずる人間全体を見出したのであらう。
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いかれる獅子ししのまえにはなにものの阻害そがいもない。忍剣はいま、さながら羅刹らせつだ、夜叉やしゃだ、奸譎かんけつ非武士ひぶし卑劣ひれつ忿怒ふんぬする天魔神てんましんのすがただ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南海の島から島へと渡り歩く白人行商人の中には、極くまれに(勿論、大部分は我利我利の奸譎かんけつな商人ばかりだが)
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
こう勘考思量したのである、ところが権利は他人に譲渡された。しかもそれは男にとって最も強敵たる女性であり女性の中でも最も奸譎かんけつなる妖婦であった。
日蓮の父祖がすでに義しくして北条氏の奸譎かんけつのために貶せられて零落したものであった。資性正大にして健剛な日蓮の濁りなき年少の心には、この事実は深き疑団とならずにはいなかったろう。
奸譎かんけつな老人は、占卜者せんぼくしゃを牛角杯二でもって買収し、不吉なシャクの存在と、最近の頻繁ひんぱんな雷鳴とを結び付けることに成功した。人々は次のように決めた。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
神は予に明子を見る事、妹の如くなる可きを教へ給へり。然り而して予が妹を、かかる禽獣の手にせしめ給ひしは、何ぞや。予は最早、この残酷にして奸譎かんけつなる神の悪戯に堪ふる能はず。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
進藤主計は冷酷な人間として定評があった、奸譎かんけつ佞臣ねいしんとさえ云われた。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
思わぬご不興に愕然がくぜんとした博士は、直ちに、これが奸譎かんけつな文字の霊の復讐ふくしゅうであることをさとった。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しれ者というんだ、人間というものは一方から好かれれば、一方から憎まれる、好評と悪評は必ず付いてまわるものだ、あらゆる人間に好かれ、少しも悪評がないというのは、そいつが奸譎かんけつ狡猾こうかつだという証拠のようなものだ