壁板したみ)” の例文
ただ物凄い風の音と、木の葉がぱらぱらと窓や、壁板したみに当って散り敷く音を聞くばかりで、誰とて自分の家を訪ねて呉れるものがありません。
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
砂利と落葉とを踏んで玄関へ来ると、これもまた古ぼけた格子戸かうしどほかは、壁と云はず壁板したみと云はず、ことごとつたに蔽はれてゐる。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
砂利と落葉とを踏んで玄関へ来ると、これもまた古ぼけた格子戸かうしどほかは、壁と云はず壁板したみと云はず、ことごとつたおほはれてゐる。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
どういうものかその後誰も来てこの家の始末を付けるものがなかった。雨が漏ったり、風が壁板したみを破ったりして、彼是かれこれ一年余りもそのままになっていた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ブリキ屋根の上に、ぬかのような雨が降っている。五月の緑は暗く丘に浮き出て、西と東の空を、くっきりとさえぎった。ブリキ屋根は黒く塗ってある。家の壁板したみも黒い。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
風にさらされた石灰が壁板したみの下に固まって落ちていた。家の中はひっそりとして冷たい気が領していた。避病院が、今頃、戸が開けられて人の入ったことは例がなかった。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ブリキ屋根には赤い錆が出て、黒塗の壁板したみには蛞蝓なめくじの歩いた痕が縦横についていた。私は、黒い家の周囲まわりを廻った。果して窓があった。東向になっている窓が閉っていた。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それでなくても家の周囲は雪がこいで壁板したみや、葦簾よしずなどが立てかけてあって、高い窓から入る明りばかりだから少し暮方くれがたに近くなると表はそうでなくても家の内は真暗だ。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小舎こやは山の上にあった。幾年か雨風に打たれたので、壁板したみには穴が明き、窓は壊れて、赤い壁の地膚があらわれて、家根やねは灰色に板が朽ちて処々ところどころむしろかぶせて、その上に石が載せられてあった。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)