場数ばかず)” の例文
戦場場数ばかずの豪の者、千軍万馬を往来した驍将ぎょうしょうの鼻には、どことなく荒涼凄惨たる戦場の殺気を彷彿せしむべき或るものがあります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それに場数ばかずを踏んでいる。会社の幹部が独逸人ばかりだった頃はすべて英学で用を足していたし、彼方あっちでは時折演説をやったものだ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
数日来多少場数ばかずを踏み、貪慾どんよくに気の狂った彼とても、云い難き恐れの為に、戦慄を感じないではいられませんでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いくつになっても初心おぼこ娘の純真さを失わない彼女であった筈だけれども、たびたび見合いの場数ばかずを蹈むうちに、矢張一種の厚かましさ、心臓の強さ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おのおの戦場場数ばかずの功者に当てさせたところが、或いは二万と言い、或いは一万五千などと言った、その実
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女郎買いや淫売あさりでは相当場数ばかずを踏んでいた俺なのに、それがクララに血道をあげるに至ったのは
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
場数ばかずを踏んだ証拠である。一つの立ち木から他の立ち木、移ろうとして広太郎、一瞬間全身を現わした時、肩に白髪の泡を立て、「どうだ!」と一躍切りこんで来た。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
相手が場数ばかずを踏んでいる玄人くろうと今日こんにちのことばで云う常習犯のような奴になると、向うでもその呼吸を呑み込んでいるので、こっちのことばが少したるむとすぐに、その隙をみて
半七捕物帳:45 三つの声 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さすがは場数ばかずを踏んだ巡査部長だけあって、口ではおどろいても、態度はしっかりしたものだ。腰をかがめると、火掻ひかぼうで、その肋骨らしいものを火のなかから手前へ掻きだした。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
チャンチャンバラバラの場数ばかずんで来たのだが!——かつて負けたというためしがない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
邁遍まんべんなく発育しきった堂々とした体格、それに社交の場数ばかずを踏んだ女に特有の、男に対しては何の感じも動かさないで、反対に男の心をどうにでもあやつってみせるといった風な、自信にみちた
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
熊捕くまとり場数ばかずふみたる剛勇がうゆうの者は一れん猟師れふしを熊のる穴の前にまた