垢抜あかぬけ)” の例文
旧字:垢拔
茶色が「いき」であるのは、一方に色調のはなやかな性質と、他方に飽和度の減少とが、あきらめを知る媚態、垢抜あかぬけした色気を表現しているからである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
何も御在ませんがと言って、座敷へ座布団を出して敷いてくれた。三十ぢかい小づくりの垢抜あかぬけのした女であった。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かの子 いえ、あれは非常に垢抜あかぬけした女だと思いますね。それから「トルコの夜」のヒロインはなお、とても現代の日本の女の常識的な新味はあれにくらべることが出来できません。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
前垂掛まえだれがけ、昼夜帯、若い世話女房といった形で、その髪のいい、垢抜あかぬけのした白い顔を、神妙に俯向うつむいて、麁末そまつな椅子に掛けて、卓子テエブル凭掛よりかかって、足袋を繕っていましたよ、紺足袋を……
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
運命に対する知見に基づいて執着しゅうじゃくを離脱した無関心である。「いき」は垢抜あかぬけがしていなくてはならぬ。あっさり、すっきり、瀟洒しょうしゃたる心持でなくてはならぬ。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
垢抜あかぬけして色の浅黒いのが、しぼりの浴衣の、のりの落ちた、しっとりと露に湿ったのを懊悩うるさげにまとって、衣紋えもんくつろげ、左の手を二の腕の見ゆるまで蓮葉はすはまくったのを膝に置いて、それもこの売物の広告か
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いつも立寄る湯帰りの、姿も粋な」とは『春色辰巳園しゅんしょくたつみのその』の米八よねはちだけに限ったことではない。「垢抜あかぬけ」した湯上り姿は浮世絵にも多い画面である。春信はるのぶも湯上り姿を描いた。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)