くに)” の例文
常世トコヨと称する異郷から、「まれびと」と言ふべき異人が週期的に、此くにを訪れたのである。さうしてその都度、儀礼と呪詞とを齎らした。
然れども比婆須ひばす比賣の命、弟比賣おとひめの命、二柱を留めて、その弟王おとみこ二柱は、いと醜きに因りてもとくにに返し送りたまひき。
彼らは人となり淳朴で、常に山菓このみを取って喰う。また蝦蟆かえるを煮て上味とする。そのくには京(応神天皇の都は高市郡の南部大軽の地)よりは東南、山を隔てて吉野河の河上に居る。
国栖の名義 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
我々の住む国土に対して、他界が考へられ、其処の生活様式が、すべて、此くにの事情と正反対の形なるものと考へてゐた。
かれ、太素は杳冥えうめいたれども、本つ教に因りてくにはらみ島を産みたまひし時をり、元始は綿邈めんばくたれども、先の聖にりて神を生み人を立てたまひし世をあきらかにす。
而もその呪詞は、此くにに生れ出たものとは、古代においては、考へられては居なかつた。即、古代人の所謂海阪ウナザカの、彼方にあるとした常世トコヨの国から齎されたもの、と考へたのである。
日本文学の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)