噯気おくび)” の例文
旧字:噯氣
また、母も、わたくしが年頃になり、売物として花を飾らなければならない必要から、乞食の子呼ばりは噯気おくびにも出さなくなりました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼の貪食ぶりは言語に絶した壮観で、挑みかかるようにありったけのものを喰いつくすと、喉を鳴らして遠慮なく噯気おくびをした。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
……これまで手前共の方からはあれの素性すじょうについては、ただの一度だって、一切噯気おくびにも出したことがござりましねえのに
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
稚児サン騒ぎなぞ噯気おくびにも出さなくなった今に至って私一人は俄然がぜんとして稚児サンのよさに覚醒めざめ、どうやら朝起きても私の眼前には昨日以来の太子の
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
……噯気おくびの出るほど聞かされた伯父の意見と、この二つの経験、就中勘忍袋の発見に依って、千蔵は新生活に対する自分の力量に確信を持っていたのである。
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして鳥はその儘出入の者に呉れてやつて、そのは死ぬるまで鶉を聞かうなどとは噯気おくびにも出さなかつた。
手前ら何だぞ、蜻蛉の辰に指一本差そうもんならこの三次が承服しねえからそう思え、いいか、月番が来ても旦那衆が見えても辰のことだけあ噯気おくびにも出すな。
そしてその時も、子供のことなんかは、噯気おくびにも出なかった。マダム自身も子供のことは匂わせたこともなかった。それを「若禿」が知ってるのが不思議だった。
田舎者 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼は恐怖のあまり氷のようになった。父の胸に息づまるほど抱きしめられ、酒臭い息や泥酔でいすい噯気おくびを顔に感じ、気味悪い涙や接吻にらされて、嫌悪けんおと恐怖とにもだえていた。
にんじんは、苦情もいわず、遮二無二しゃにむにがんばってあとをついて行く。靴で怪我けがをする。そんなことは噯気おくびにも出さない。手の指がじ切れそうだ。足の爪先つまさきふくれて、小槌こづちの形になる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
さうなると腹を痛めないかぎりに許しがでるのをこつそりとがなすきがなちぎつてぼたん杏の噯気おくびがでるまでくふ。それでも食ひきれないので紫色にうみすぎたのがぼたりぼたりと落ちる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
おれがまだ買うなんて噯気おくびにも出さないうちに、売るとこきゃあがる!
噯気おくびにも出さなかった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
掌で唇の泡をぬぐい払うと、さも甘そうにうえーと噯気おくびを吐いた。その誇張した味い方は落語家の所作を真似まねをして遊んでいるようにも妻の逸子には壁越しに取れた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
間食には重患者食のカルケットやビスケット、シロップを噯気おくびのでるほど飲んだうえ
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
吉岡君は、もうあれから四年にもなるが、金のことなんか噯気おくびにも出さないで、逢えばいつでも僕の芸術のことばかり尋ねてくれた。所が不思議にも、それが僕には非常につらかったのだ。
好意 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
人生すべて「参」という説、これを又四郎は噯気おくびの出るほど教えこまれた。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)