咽喉首のどくび)” の例文
東山への咽喉首のどくびも、近く人馬は稀れに、遠く空気は澄みきっていたから、橋の上に立ちどまった道庵が、米友をさし招き
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
妾の髪の毛で男の咽喉首のどくびを、くちなわのように巻いてもやったし、重いふすまを幾枚も重ねて、その中で男をしてもやったよ。……ご覧よ、女王様が別の男を召した。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
波紋の石は、まずこの江戸の咽喉首のどくび、品川の夜に投ぜられて、広く大きく、八百八ちょうへひろがっていく。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのときサラリ襖が開いて、さらぬだに真っ赤な顔から咽喉首のどくびへかけてをいっそうテラテラ光らせ、黄八丈の丹前へ大柄の半纏を引っかけて師匠の助六が入ってきた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
しなりと俎の下へ伸びた皓々しろじろとした咽喉首のどくびに、触ると震えそうな細い筋よ、わらび、ぜんまいが、山賤やましずには口相応、といって、猟夫だとて、若い時、宿場女郎の、まいらせそろもかしくも見たれど
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美禰子は椅子の背に、油気あぶらけのない頭を、無造作に持たせて、疲れた人の、身繕いに心なきなげやりの姿である。あからさまに襦袢じゅばんえりから咽喉首のどくびが出ている。椅子には脱ぎ捨てた羽織をかけた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
甲府の城は名だたる要害の城で、徳川家でも怖れて大名に与えずに天領としておくところだ、それを乗取れば関東の咽喉首のどくびを抑えたということになるのだ。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こうする……どうするのかと思うと、やにわに大刀だいとう銀百足ぎんむかでの鞘を払った造酒だ。お妙の胸ぐら取ってそこに引き据えると同時に、紙のように白い咽喉首のどくび切尖きっさきした。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「だがそれさえこの俺は、許そうと思っていたのだよ」咽び泣くような声である。「が、今は許されない!」血刀を下へ下ろし切った。その切っ先が真っ直ぐに、八重梅の咽喉首のどくびへ向けられた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
道のはなはだしく迫ることを感じ、なるほど、ここは要害だ、柴田勝家が越前から上るにしても、羽柴秀吉が近江から攻めるについても、両々共にその咽喉首のどくびに当る
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その口をあわただしく動かして、咽喉首のどくびおさのように上下するところを見れば、これは何か言わんとして言えないのでした。訴えんとして訴えられないものでありました。
今度は、初霜が逆襲気味で、醒ヶ井の咽喉首のどくびを抑えていると、それを機会しおにして若いのが
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
将来は大名公家の咽喉首のどくびを押えて置くことになる——ところでお嬢様、三井、鴻池などの身のふりかたはひとごと、これをあなた様御自身に引当ててごらんになると、いかがでございます
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)