吉祥寺きちじょうじ)” の例文
二年前(万治元年)の本郷吉祥寺きちじょうじの火事、今年の正月の湯島天神門前の火事と、大きい火事だけでも三つ、その外小さい火事は毎晩だ。
本郷ほんごう駒込こまごめ吉祥寺きちじょうじ八百屋やおやのお七はお小姓の吉三きちざに惚れて……。」と節をつけて歌いながら、カラクリの絵板えいたにつけた綱を引張っていたが
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
汽車に乗せたらとって、荻窪おぎくぼから汽車で吉祥寺きちじょうじに送って、林の中につないで置いたら、くびに縄きれをぶらさげながら、一週間ぶりにもどった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
吉祥寺きちじょうじに一軒、親しくしているスタンドバアがあって、すこしは無理もきくので、実はその前日そこのおばさんに
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)
神谷は先方に気づかれぬよう、半丁も手前で自動車を降りて、運転手にここはどこだと尋ねると、なんでも荻窪おぎくぼ吉祥寺きちじょうじの中ほどらしいとの答えであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
或年の夏の末、私の友人が私を吉祥寺きちじょうじ方面へ誘った、そして私の仕事の便宜上、その辺で住めばいいだろうといって地所や家を共に見てあるいたことがあった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
麻布じゃあ、吉祥寺きちじょうじの土地が欲しいって言い出すし、三ばん目のは会社の株が欲しいんだそうな。なかなか賑やかなことだった。ところで、お前さんはその場にいなかったんでね。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
吉祥寺きちじょうじで省線を降りてから、禅林寺まで行く道の細い流の中で障子をせっせと洗っているのを、秋も深くなったと思いながら、たたずんで見ていましたが、傍に小綺麗な百姓家があって
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
Y君は染井そめいの墓地からという説を出した。私は吉祥寺きちじょうじではないかとも云ってみた。
こずえをふり仰ぐと、嫩葉わかばのふくらみに優しいものがチラつくようだった。樹木が、春さきの樹木の姿が、彼をかすかに慰めていた。吉祥寺きちじょうじの下宿へ移ってからは、人はれにしかたずねて来なかった。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
日曜なので五十里さんと静栄さんと三人で久しぶりに、吉祥寺きちじょうじの宮崎光男さんのアメチョコハウスに遊びに行ってみる。夕方ポーチで犬と遊んでいたら、上野山と云う洋画を描く人が遊びに来た。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
主人は疲れて大にいやであったが、遠方から来たものを、と勉強して兎に角戸をあけて内にしょうじた。吉祥寺きちじょうじから来たと云う車夫は、柳行李やなぎごうりを置いて帰った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうして、スルメを二枚お土産にもらって、吉祥寺きちじょうじ駅に着いた時には、もう暗くなっていて、雪は一尺以上も積り、なおその上やまずひそひそと降っていました。
雪の夜の話 (新字新仮名) / 太宰治(著)
半世紀前の漁村には、駒込吉祥寺きちじょうじの寺小姓くらいに、見えたのかも知れない。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ところが老人は亡妻の命日に駒込の吉祥寺きちじょうじった時、一人の若い女が墓前に花を手向たむけているのを見て、不審のあまり、丁度狭い垣根の内のことで、女の方から気まりわるそうに辞儀をするまま
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鶴はその日、森ちゃんを吉祥寺きちじょうじ駅まで送って、森ちゃんには高円寺行きの切符を、自分は三鷹行きの切符を買い、プラットフオムの混雑にまぎれて、そっと森ちゃんの手を握ってから、別れた。
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ある年の正月、石山の爺さんは年始に行くとうちを出たきり行方不明になった。探がし探がした結果、彼は吉祥寺きちじょうじ、境間の鉄道線路の土をとった穴の中に真裸になって死んで居た。彼は酒が好きだった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)