各自おのおの)” の例文
「ええ、さて各自おのおのには、すでに御本望をお遂げなされたのでありまするか。それとも、また今夜こよいにも吉良邸へお討入りに相成りますかな。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
工場の中も荒れていてうず高く塵が積もっていたが打見たところ諸種すべての機械は各自おのおのその位置に在るらしかった。
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼らの各自おのおのは各自に特有なあたた清々すがすがしさを、いつもの通り互いの上に、また僕の上に、心持よく加えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのほとりには黒衣めが、興に乗じて躍りゐしのみ、余の獣們は腹を満たして、各自おのおの棲居すみかに帰りしかば、洞には絶えて守護まもりなし。これより彼処かしこへ向ひたまはば、かの間道よりのぼりたまへ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
森を高く抜けると、三国見霽みはらしの一面の広場になる。かっと射る日に、手廂てびさししてこうながむれば、松、桜、梅いろいろ樹のさま、枝のふりの、各自おのおの名ある神仙の形を映すのみ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
当時、すなわち永禄えいろくの頃には、備前の国は三人の大名が各自おのおの三方に割居して、互いに勢いを揮っていた。谷津の城には浮田直家なおいえ、龍の口城には最所治部さいしょじぶ、船山城には須々木豊前すずきぶぜん
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
零砕れいさいの事実を手繰たぐり寄せれば寄せるほど、種が無尽蔵にあるように見えた時、またその無尽蔵にある種の各自おのおののうちには必ず帽子をかぶらない男の姿が織り込まれているという事を発見した時
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
森を高く抜けると、三国さんごく見霽みはらしの一面の広場に成る。かっる日に、手廂てびさししてながむれば、松、桜、梅いろ/\樹のさま、枝のふりの、各自おのおの名ある神仙しんせんの形を映すのみ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どうじゃな各自おのおの、中津川の城下で、近頃こういう噂があるが、耳にしたことがござるかな? それは他でもござらぬが、三匹の狐が夜な夜な現われ、化け比べをするということじゃ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さて、そのときまでは、言ったごとく、陽気立って、何が出ても、ものが身に染むとまでには至らなかったが、物語の猫が物干の声になってから、各自おのおの言合わせたように、膝が固まった。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わしの一番恐れるのは、彼奴らが怜悧りこうになることじゃ。各自おのおの意見をいい出すことじゃ。……そうなってはたまらない。……で、彼奴らはいついつまでも、魯鈍でおって貰わねばならぬ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その行方ゆくえが分らぬなどと、騒ぐまいぞ、各自おのおの
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)