半折はんせつ)” の例文
坐右ざゆうの柱に半折はんせつに何やら書いてってあるのを、からかいに来た友達が読んでみると、「今はしのぶおか時鳥ほととぎすいつか雲井のよそに名のらむ」
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
床に海棠かいどうがいけてあった。春山の半折はんせつが懸かっていた。残鶯ざんおう啼音なきねが聞こえて来た。次の部屋で足音がした。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
半折はんせつや短冊を後から後からと書かされる。初めには忸怩じくじとして差控えたが、酔うに従って書くに従ってただそのことがうれしくてならなくなる。踊もおどった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それを後に福羽美静翁が半折はんせつに書いて、自ら讃歌を添えて贈られたのが、懸物かけものになって残っていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
俳画展覧会へ行つて見たら、先づ下村為山しもむらゐざんさんの半折はんせつが、皆うまいので驚いた。が、実を云ふと、うまい以上に高いのでも驚いた。もつともこれは為山ゐざんさんばかりぢやない。
俳画展覧会を観て (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さういつて出して来てくれたものを見ると、一枚の長い紙(半折はんせつといふもの)と、一枚の短冊であつた。それぞれ一目見て父の筆のあとだと、わかる俳句が書いてあつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そこへあか毛氈もうせんを持ち込み、半折はんせつ画箋紙がせんしなぞをひろげ、たまにしか見えない半蔵に何か山へ来た形見を残して置いて行けと言い出すのは禰宜だ。子息も来て、そのそばで墨をった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
書斎の壁にはなんとかいう黄檗おうばくの坊さんの書の半折はんせつが掛けてあり、天狗てんぐ羽団扇はうちわのようなものが座右に置いてあった事もあった。セピアのインキで細かく書いたノートがいつも机上にあった。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
伊藤公の書いた七絶しちぜつ半折はんせつを掛けた床の間の前に、革包かばんが開けてあって、そのそばに仮綴の inoctavoアノクタヴォ 版の洋書が二三冊、それから大版の横文おうぶん雑誌が一冊出して開いてある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)