勿来なこそ)” の例文
「左様——海岸の景色といっても大抵きまったようなものでござるが、大洗、助川、平潟ひらかた勿来なこそなどは相当聞えたものでござんしょう」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
花吹雪という言葉と同時に、思い出すのは勿来なこその関である。花吹雪を浴びて駒を進める八幡太郎義家の姿は、日本武士道の象徴かも知れない。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一抹いちまつのかすみの中にあるいは懸崖千仭けんがいせんじんの上にあるいは緑圃黄隴りょくほこうろうのほとりにあるいは勿来なこそせきにあるいは吉野の旧跡に、古来幾億万人、春の桜の花をでて大自然の摂理せつりに感謝したのである
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ちょうどはるのことで、奥州おうしゅうを出てうみづたいに常陸ひたちくにはいろうとして、国境くにざかい勿来なこそせきにかかりますと、みごとな山桜やまざくらがいっぱいいて、かぜかないのにはらはらとよろいそでにちりかかりました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ある時奥州へ往つて勿来なこそ関址せきあとを訪ねた事があつた。その折も大雅は京に残しておいた女房の事などはすつかり忘れてしまつて、珍しい瓦を捜さうとして雑草の生え茂つたなかを這ひまはつてゐた。
茶話:12 初出未詳 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
勿来なこそ。小名浜。江名。草野。四ツ倉。竜田。夜の森。浪江。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこで七兵衛は、上手な猟犬が獲物を追うと同じことで、あとをたどりたどり、臭いをかぎかぎ、ついに勿来なこその関まで来てしまいました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はこういう表情をして、勿来なこその古関の上に、往を感じ、来をおもうて、いわゆる彽徊顧望ていかいこぼうの念に堪えやらぬもののようです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見えるとすれば、この間を隔たる幾日かの前後に、田山白雲を彽徊ていかい顧望せしめた、勿来なこそ平潟ひらかたのあたりの雲煙が見えなければならないはずだが
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その証明のためにも、こちらから進んで行かねばならない——これらの事情がついに、白雲をして、不知不識しらずしらず、「勿来なこそ」の関の関門を、前に向って突破させてしまいました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僅かに勿来なこその関で、遠くも来つるものかなと、感傷をたくましうした白雲が、もうこの辺へ来ると、卒業して、漂浪性がすっかり根を張ったものですから、彽徊顧望なんぞという
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから第九冊「畜生谷の巻」と「勿来なこその巻」とは国民新聞に連載したのをまた改めて一冊とし、第十冊「弁信の巻」第十一冊「不破の関の巻」は全く書き下ろしの処女出版
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
田山白雲が勿来なこそせきに着いたのは、黄昏時たそがれどきでありました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
勿来なこその関を通りぬけた
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)