勁敵けいてき)” の例文
京都で吉岡清十郎一門と試合った時にも、同様な兵法を踏んでいるが、船島でも、武蔵は小次郎を勁敵けいてきと見たので、よほど大事をとったらしい。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも皆、真理原則の敵にして、この勁敵けいてきのあらん限りは、改進文明の元素は、この国に入るべからざるなり。
物理学の要用 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかれども、いかなる勁敵けいてきたりとも、ごうも恐るるに足らざることなれば、これより手につばきして、唯物論者のとるところの無心論を退治してやりましょう。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それはともかく、ゆるされてドイツに帰った後ワグナーは、相変らず衆愚と勁敵けいてきとに悩まされ続けた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
おそるべき勁敵けいてきの捕物名人に、おそるべき慧眼けいがんのホシをつけられたら、しょせんたち打ちはできないと思ったものか、つかつかとやって来ると、案の定食ってかかりました。
少年は、じっとその勁敵けいてきの逸し去ったのを見定めた様子であったが、そのままなめらかな岩にせなを支えて、仰向あおむけに倒れて、力なげに手を垂れて、いたく疲れているもののようである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恥づべきをも恥ぢずして行ひけるほどに、勁敵けいてきひ、悪徒にかかりて、或はもてあそばれ、或は欺かれ、或はおびやかされいきほひ毒を以つて制し、暴を以つてふるのむを得ざるより、いつはその道の習に薫染して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
遥か南々西に位する雄峰乗鞍岳にあたるのには、肩胛けんこういと広き西穂高岳が、うんと突っ張っている、南方霞岳に対しては、南穂高の鋭峰、東北、常念岳や蝶ヶ岳をむかうには、屏風岩の連峰、北方の勁敵けいてき
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
性行にも音楽にも、生ける時も、かんおおうても、崇拝者と勁敵けいてきとの多いワグナーではあったが、そのあゆみは巨人的でその音楽の後世への影響の深甚しんじんさは否むべくもない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
洋商の向かうところはアジヤに敵なし。恐れざるべからず。もしこの勁敵けいてきを恐れて、兼ねてまたその国の文明を慕うことあらば、よく内外の有様を比較して勉むるところなかるべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お小夜の調子がひどく變なので、お絹は思はず、この勁敵けいてき——自分の夫をぬく/\と奪つた上、家の中のあらゆる權力までもむしり奪らうとして居る、美しい惡魔の顏をのぞいたのです。