加之しか)” の例文
加之しかも風の吹き廻しで、声は却ってあとの方へ響くので、巡査は彼女かれが重太郎を呼ぶ声を聞いた。忠一の耳にもお葉の声が聞えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
加之しかも此無名の豪傑はさつの元老であらうのちやうの先輩であらうの或は在野の領袖りやうしうなにがしであらうの甚しきは前将軍であらうのと
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
加之しかも一旦貰った女房は去るなと言うでないか? 女房を持つのが堕落なら、何故一念発起して赤の他人になッちまえといわぬ。一生離れるなとは如何どういう理由わけだ? 分らんじゃないか?
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
幾ら気が張っていても、疲労つかれには勝たれぬ。市郎は昨夜雨中を駈廻かけまわった上に、終夜殆ど安眠しなかった。加之しかも今朝は朝飯も食わなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の過失そさうを棚へ上げて狂犬呼ばゝりは怪しからぬはなしだ。加之しかも大切な生命いのちを軽卒にるとは飛んでもない万物の霊だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
市郎は散歩がすきであった。加之しかも未来の妻たるべき冬子の家を訪問するのであるから、悪い心地こころもちなかった。早速に帽子を被って家を出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何でも恋愛咄で暗に自分と嬢様の関係に擬したものださうだ。加之しかも其著作した理由いはれ因縁を仄めかして持つて来たから嬢様も呆れてお了ひなすつた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
加之しかも二晩もつづけて見るというのは実にし兼ぬる次第で、思えば思うほど実に不思議な薄気味の悪いはなしだ。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
加之しか眼眩まばゆきばかりに美しく着飾った貴婦人で、するすると窓のそば立寄たちよって、何か物を投出なげだすような手真似をしたが、窓は先刻せんこく私がたしかじたのだから、とても自然にく筈はない。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのうしろ姿はまさしく猫、加之しかも表通りの焼芋商やきいもやに飼つてある雉子猫きじねこだ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)