)” の例文
その洋服の男の前のテーブルにも街路とおりの方を背にして、鳥打帽を筒袖つつそでの店員のようなわかい男がナイフとホークを動かしていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
出戻りとかいう名をせられることが、恐ろしかったのである。病気になった始めから、ただその一事をどのくらい気にんでいるかを知っている浩は、よけい心配した。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「山西じゃないか」と、横合よこあいから声をかけた者があった。わかい男は耳なれた声を聞いて足を止めた。鳥打帽とりうちぼうた小柄な男が立っていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その時の芝居は旧派と新派の合同芝居で、開場の日は旧派が青い帽子に新派が赤い帽子をて、車に乗って町まわりをした。
唖娘 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その幹の陰に隠れていたらしい中折帽なかおれぼうわかい男が、ひらひらと蝙蝠こうもりのように出て来てその女とれ違った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのうちにちょとした雑木林ぞうきばやしの中でじぶんていた麦藁帽子が見つかったので、そのあたりの草の中を捜していると、畳一枚ぐらいの処に草のよれよれになった処があって
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
勘作はふと水の男が笠を落すと云ったことを思いだして旅人のほうに眼をやった。と、さらさらと風が吹いて来て旅人のていた笠が、ひらひらと飛んでそれが湖の水際みずぎわに落ちた。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)