何物なんに)” の例文
他の二人も心得て、何処をあてともなしにドンドン鉄砲を撃つこと二三発、それから再び釜を覗いて見るとモウ何物なんにも見えない。
「いえ、串戯じょうだんじゃ有りませんよ、真実に見えないんですよ……洋燈の側なら何でも能く分りますが、すこし離れると最早何物なんにも分りません」
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『今直ぐ、何物なんにも無いんですけど晩餐ごはんを差上げてから始めるんですつて。私これから、清子さんと神山さんをお誘ひして行かなけやならないの、一緒に行つて下すつて? 済まないけど。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「春子さん、何物なんにも無いじアありませんか。」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「お昼飯ひるに、おかゆをホンのぽっちり——牛乳はいやだって飲みませんし——真実ほんとに、何物なんにも食べたがらないのが一番心配です」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ハテ可怪おかしな事をいうと思いながら、指さす方を見あげたが、私の眼には何物なんにも見えない。
「今日は旦那も骨休めだとおっしゃるし、三吉も来ているし、何物なんにも無いが河魚で一杯出すで、お前もそこで御相伴ごしょうばんしよや」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先刻さっきから何時間ここに坐っておりましょう。もう薄暗くなりました——わたしはもう何物なんにりません、どうぞ最後の日まで愛させて下さい……」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ハイ、見にやりませう。生憎只今は何物なんに御座ございません時でして——野菜も御座ませんし、河魚も捕れませんし。」
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何物なんにも君には置いて行くようなものが無いが、そのくわげようと思って、とっといた」と三吉は自分が使用つかった鍬の置いてある方を指して見せた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何物なんにも叔父さんから祝つて遣る物が無い。これをお前に祝ふとしよう。いろいろ子供も御世話に成りました。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「東京へ土産にするやうなものは何物なんにも無かつた。」と言つて、その繪葉書を見せた。中に大島の風俗があつた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そいつは好いものをくれるナ」と民助もよろこんだ。「お母さんのものは何物なんにも最早おれのところには残っていない」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「叔父さんの部屋には何物なんにも無い——病人に舞込まれても掛けてやる毛布も無い。ここはまるで俺のいおりだ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あれも要らない、これも要らない、お前さんは何物なんにも要らないんだねえ——まあ、この洋服はこうしてしまって置こう——今に弘でも大きく成ったら、着せるだ」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、お雪の心を読もうとするような眼付をして、なおよく見た。何物なんにも変ったものが蝋燭の光に映らなかった……深い眠はお雪の身体を支配しているらしかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
正太には生命いのちがくれてある、何物なんにも幸作にはそんなものがくれて無い、そう神経質な眼で養子や嫁を見るべきものでもあるまい、欠点を言えば正太の方にも有るではないか
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私はあんまり人が好過よすぎるなんて言はれますから……今度は何物なんにも置いて行きません。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「こんな田舎じゃ何物なんにげるようなものが無い。罐詰かんづめでも買いにやろうか」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何から何まで御生家おさとの方へ御送りしたんですもの……何物なんにも置かない方が好いなんとおっしゃって……そりゃ、旦那様、御寝衣おねまきまで後で私が御洗濯しまして、御蒲団やなんかと一緒に御送りいたしました
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ホ。何物なんにもくれなくてもいんだ」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)