仮睡うたたね)” の例文
旧字:假睡
『出来るよ、君、』とユースタスは言って、これから仮睡うたたねでも始めようかとでもいったように、帽子のひさしを目の上までぐっと下した。
マドロス氏はいかにと見れば、室の一隅の横椅子に背をもたせかけて、いびきを立て、仮睡うたたねしているところはたあいないものです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その親が海に働こうとしてあかつきに浜に出たが、まだ夜が明けぬのでしばらく寄木を枕にして仮睡うたたねしていると、今ほど何某なにぼうの家に子がうまれる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
門野が寐惚ねぼまなここすりながら、雨戸を開けに出た時、代助ははっとして、この仮睡うたたねから覚めた。世界の半面はもう赤い日に洗われていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは春のことであったが、其処そこの寺男が縁側で仮睡うたたねをしていると、小さなみゃあみゃあと云うような変な話声が聞えて来た。
義猫の塚 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あちこちに置かれた玻璃はりの道具、錫の食器、青磁の瓶——燈火ともしびかない一刻を仮睡うたたねの夢でも結んでいるように皆ひそやかに静まっている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は仮睡うたたねから覚めて飛起きた時、周章あわてて時計を見誤って約束の五時半より一時間早くこの家を訪問した次第である。何という粗忽者そこつものであろう。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
第一、昨夜は眠らなかったとは思っていますけれども、その側から、仮睡うたたねぐらいはしたぞとささやいているものがあるのです
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これで話を止めて、栄一は横になって、挽舂ひきうすの響きを聞きながらうつらうつら仮睡うたたねの夢に落ちた。勝代は温かすぎる炬燵で逆上のぼせて頭痛がしていたが、それでも座を立とうとはしないで
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
加十がここで仮睡うたたねをしているうちに、事件はどうやら加十などの手に負えないほどに大きく発展し始めたのみならず、皇帝の顔を見知っている林謹直にこの卑賤極まる寝顔を見られてしまっている。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その後で老婆はお滝の体の工合を聞こうと思ってへやの中へ入った。室の中ではお滝が肘枕をして仮睡うたたねをしていた。老婆は吃驚させないように小さな声で云った。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
少し隠すかしとけばよかったなあ。そうすれば、静かに、気楽に仮睡うたたねも出来たんだが。
それはひょうを踏みはずし、そくを踏み落して、住職や、有志家連をして、手に汗を握らしむる程度のものに相違ないから、その点の安心が、米友をして仮睡うたたねの夢に導いたと見らるべきです。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この時、机竜之助は横になって炉辺に仮睡うたたねをしていました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お絹は仮睡うたたねをしていた竜之助の肩へ手をかけてゆする。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)