仁恕じんじょ)” の例文
彼はその神のごとき仁恕じんじょに対抗せしむるに、吾人の心のうちにある悪の要塞ようさいたる傲慢をもってした。
「せっかくの、御好誼こうぎには、越前も、越前個人として、ありがたくお受けはしますが、江戸町奉行の職において、上様の御仁恕じんじょも、方々かたがたの思し召も、れることはまかりなりません」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坐中の貴婦人方には礼を失する罪をまぬかれざれども、予をして忌憚きたんなくわしめば、元来、淑徳、貞操、温良、憐愛、仁恕じんじょ等あらゆる真善美の文字を以て彩色さいしきすべき女性と謂うなる曲線が
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の父杉百合之助ゆりのすけ敬神けいしん家にして忠摯ちゅうし篤実とくじつなる循吏じゅんりなりき。彼の母児玉氏は、賢にして婦道あり、姑につかうる至孝、子を教ゆる則あり、仁恕じんじょ勤倹きんけん稼穡かしょくの労に任じ自から馬を牧するに至る。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
葬祭の儀は、漢の文帝のごとくせよ、と云える、天下の臣民は哭臨こくりん三日にして服をき、嫁娶かしゅを妨ぐるなかれ、と云える、何ぞ倹素けんそにして仁恕じんじょなる。文帝の如くせよとは、金玉きんぎょくを用いる勿れとなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、心底のものを吐露とろするように、ふたたび平伏して信長の公明な仁恕じんじょを仰いだ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)