人車くるま)” の例文
お梅が帽子と外套を持ッて来た時、階下したから上ッて来た不寝番ねずばんの仲どんが、催促がましく人車くるまの久しく待ッていることを告げた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
わたしも他の人達とあとや先になって、雨あがりの路をたどってゆくと、一台の人車くるまがわたしたちを乗り越して通り過ぎた。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
で、同じ家の二階に上って向い合って食事をすますと、佐々木君は遅くも九時頃までには花巻に着きたいと言って、つぎの村まで人車くるまに乗ることにした。
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
夕暮近いので、街はひとしおの雑踏を極め、鉄道馬車の往来、人車くるまの東西にけぬける車輪の音、みちを急ぐ人足の響きなど、あたりは騒然紛然としていた。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『おい人車くるまに乘れば好かつたね。』と小池は、路傍みちばたの柔かい草の上を低い駒下駄こまげたに踏んで歩きつゝ土埃つちぼこりの立つことをふせいでゐるお光の背後うしろから聲をかけた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
帰りには、主僧は停車場まで人車くるまを用意して置いて呉れた。わかれを告げた時には日はもう暮れかけて居た。『もう、何うぞ——』私達はかういつて幾度も辞した。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
ふだんは寂しい停車場にも、きょうは十五六台の人車くるまが列んでいて、つい眼のさきの躑躅園まで客を送って行こうと、うるさいほどに勧めている。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
梯子はしごを下りる音も聞えた。善吉が耳を澄ましていると、耳門くぐりを開ける音がして、続いて人車くるまの走るのも聞えた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
この車夫くるまひきは車も衣装みなりも立派で、乗せていた客も紳士であったが、いきなり人車くるまを止めて、「何をしやアがるんだ、」と言いさま、みぞの中の親父に土のかたまりを投げつけた。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
停車場ステーシヨンにはきつ人車くるまがあつたんだよ。表口から出なかつたもんだから、分らなかつたけどね。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
以上の物語が終ったころに、先生の人車くるまが門前に停まったらしいので、私たちは急いで出迎えに行った。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もうこのまま出かけよう。夜が明けても困る」と、西宮は小万にめくばせして、「お梅どん、帽子と外套がいとうを持ッて来るんだ。平田のもだよ。人車くるまは来てるだろうな」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「蝶ちゃんはいい子だ、ついでに人車くるまを。」と客が居ずまいを直してあいづちを打った。
疲労 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人車くるまがあつても、乘つて行くとこが分れへんのに、仕樣しやうがおまへんがな。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
わたくしは両親とも相談の上で、松島さんと二台の人車くるまをつらねて、すぐに北千住へ出向きました。
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はち切れさうな微笑を湛へて、網曳後押し付きの人車くるまで歸つて來た。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
今から思うと滑稽こっけいだが、かあいそうだ、それでなくてあの気の抜けたような樋口がますますぼんやりして青くなって、鸚鵡のかごといっしょに人車くるまに乗って、あの薄ぎたない門を出てゆく後ろ姿は
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そうして、もう前から誂えてあったらしい二台の人車くるまを呼びました。ここらの車夫は百姓の片手間なので、前から頼んで置かないと乗りはぐれることがあるそうです。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雨もやみ、傘を持っているにも拘らず、停車場から僅かの路を人車くるまに乗ってくるようでは、かの老女もあまり生活に困らない人であろうなどと、わたしは又想像した。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
北国ほっこくをめぐる旅人が、小百合火さゆりびの夜燃ゆる神通川じんつうがわを後に、二人輓ににんびきの人車くるまに揺られつつ富山の町を出て、竹藪の多い村里に白粉おしろい臭い女のさまよう上大久保かみおおくぼを過ぎると、下大久保しもおおくぼ
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あいにくに人車くるまは一台も見えないので、わたくしも途方にくれました。ぐずぐずしていて、途中で日が暮れては大変だと思いましたから、わたくしは一生懸命になって歩き出しました。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きょうは何だか気がくので、わたしは人車くるまに乗って根津へ駈けつけると、先生はもう学校へ出た留守であった。それは最初から予想していたので、わたしは二階へ通されて奥さんに会った。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)