両国りやうごく)” の例文
旧字:兩國
家は地震にもつぶれざりしかど、忽ち近隣に出火あり。孫娘と共に両国りやうごくに走る。たづさへしものは鸚鵡あうむかごのみ。鸚鵡の名は五郎ごらう。背は鼠色、腹は桃色。
大川筋おほかはすぢ千住せんぢゆより両国りやうごくに至るまで今日こんにちに於てはまだ/\工業の侵略が緩慢に過ぎてゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
水落つ、たたと…………両国りやうごく大吊橋おほつりばし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
両国りやうごくの鉄橋は震災前しんさいぜんと変らないといつても差支さしつかへない。唯鉄の欄干らんかんの一部はみすぼらしい木造に変つてゐた。この鉄橋の出来たのはまだ僕の小学時代である。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若しその中に少しでも賑やかな通りを求めるとすれば、それはわづか両国りやうごくから亀沢町かめざわちやうに至る元町もとまち通りか、或ははしから亀沢町に至るふた通り位なものだつたであらう。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
両国りやうごくより人形町にんぎやうちやうづるあひだにいつか孫娘と離れ離れになる。心配なれども探してゐるひまなし。往来わうらいの人波。荷物の山。カナリヤの籠を持ちし女を見る。待合まちあひ女将おかみかと思はるる服装。
下足札はまだ木のにほひがする程新しい板のおもてに、俗悪な太い字で「雪の十七番」と書いてある。自分はその書体を見ると、何故なぜ両国りやうごくの橋のたもとへ店を出してゐる甘酒屋あまざけやの赤い荷を思ひ出した。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
運命は僕を売文の徒にした。若し「泰ちやん」も僕のやうにペンをつてゐたとすれば、「大東京繁昌記はんじやうき」の読者はこの「本所ほんじよ両国りやうごく」よりも或は数等美しい印象記を読んでゐたかも知れない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)