不具者かたわもの)” の例文
……第一住んでいる人間が、私と桔梗とを抜かしてしまえば、全部が全部不具者かたわものというのが、不思議に思われるに相違ありますまいな。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人とも片眼を失った不具者かたわものであるということは、却って二人の仲をかたく結び付けるよすがとなるかも知れません。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
私にはいかにも不具者かたわもの同士仲よくしようよ! と言わぬばっかりのしぐさに思われて、厭わしさに私は一歩身を引いた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
それは女々めめしき病弱なねた心から出る不具者かたわものの懐疑を駆逐するであろうが、雄々しき剛健な直き心の悩む健全な懐疑とは親しげに握手するのではなかろうか。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
さよう、不具者かたわものの花嫁は、ここの堂守ラザレフの姉娘ジナイーダなのです。無論われわれには式なんぞありませんが、いよいよ最初の夜が始まろうと云う矢先でした。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「それはわたくしが不具者かたわものであるからでございます。」と、少女はその美しい眼に涙をやどした。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
不具者かたわものだから世間が不憫ふびんをかけてくれてもいいんだろう、それをお前、あっちでも粗末にしたり、こっちでもぶん撲ったり、俺らの身にもなってみねえな、ずいぶん辛いよ
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
所詮、弓矢の神に見放された、武門の不具者かたわものと、重蔵もこの頃は放任してあったのである。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甚吉 (激しくこづき回しながら)不具者かたわもののくせに何いうだ。爺さんが、生きていたときに、庄屋様に願うて家屋敷とも俺の物になっているのだ。われは牛小屋でくすぶってりゃいいんだ。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
狂人きちがい不具者かたわものと思って、世間らしい望みを嘱してくれぬようにと答えました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
信じなかったのですが、こうして家内に死なれたり生れもつかぬ不具者かたわものになったりしますと、やはり、そういうことを信じないではいられなくなりましたよ
猫と村正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
フロールの話に始まって、つい少年期の柔らかな私の頭にえぐり付けられた、不具者かたわものの惨めさを思い出していたのであるが、世間では不具者はひがみやすいという。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
その行く手に廻り横から襲い、後から続いて武士や不具者かたわもの——城兵と囚人とらわれびとの人の群れが、混乱し渦巻いた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて不具者かたわものの悲愁な姿が現われると、このへやの空気は、いっそう暗澹たるものに化してしまった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「ところが、ごしんさま、容貌がよくて、気立ての親切な申し分のない女が、私共みたような不具者かたわもののところへ来てくれるからには、どのみち、ただ者じゃありますまい」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
首領の他の一人 その者は、不具者かたわものじゃないか。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たとい私がどんなに御慕い申し上げ、又あなたが私のすべてを御許し下さっても、不具者かたわものとして御そばで一生を送ることは、私の堪えられぬところで御座います。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
やはりすべての原因を私自身の内部に検討して、もし私がこういう不具者かたわものでさえなかったならば、おそらくこんな事件は起らなかったのではなかろうかと考えている。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
漢権守あやごんのかみの城下であって、元からの家臣はいうまでもなく、掠奪されて来た女たちや、誘惑されて来た不具者かたわものなども、この城下に家を構えて住み、各自の生活をいとなみながら
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さればこそ、この不具者かたわものせんを譲って、自分が後陣を承って甘んじている。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
活躰解剖いきみふわけの犠牲にされて、不具者かたわものにされるということだけは、疑がいないように思われた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは……ああ、こうしていざ打明けようと決心してさえ、なおも筆が進みかねるので御座いますが、思い切って申します……実は私は右の眼のめいを失った、不具者かたわものなので御座います。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その事のていを見てあれば、不具者かたわものも、五体満足なのも取交ぜて、老若男女の乞食という乞食が、おのおのその盛装を凝らし、こもを着るべきものは別仕立のきたないのを着、襤褸つづれの満艦飾を施し
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが遠くから見ていると、不具者かたわものなどとは思われない。みんな健康たっしゃそうな人間に見える。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この不具者かたわもののわたくしでよろしかったならば、何なとお命じ下さいませ、琵琶は少々心得ておりまする、何卒、この不具者にできるだけの仕事をさせて、可愛がってやっていただきとうございます。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日本の文学古典には驚くばかり精通し若いに似合わぬ学者ではあるが、武術に至っては農夫にも劣り、槍にも太刀にも用がないとは、この乱れた戦国の世にはどうにも向かない不具者かたわもの
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「生れもつかぬ不具者かたわもの——」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「こう醜い不具者かたわものにされましては、将来このさき生きて行く気もいたしませぬ」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桃源境! 別天地! だが不具者かたわものの社会でもあった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)