上坂のぼりざか)” の例文
昨日きのふ碓氷うすひ汽車きしやりて、たうげ權現樣ごんげんさままうでたとき、さしかゝりでくるまりて、あとを案内あんないつた車夫しやふに、さびしい上坂のぼりざかかれたづねた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
少し急込せきこんで聞きながら、境はたてに取った上坂のぼりざかを見返った。峠をおおう雲の峰は落日の余光なごりに赤し。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それは表門でござった……坂も広い。私が覚えたのは、もそっと道が狭うて、急な上坂のぼりざかの中途の処、煉瓦塀れんがべいが火のように赤う見えた。片側は一面な野の草で、いきれの可恐おそろしい処でありましたよ。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まさか、この破屋に、——いや、この松と、それよりこずえの少し高い、ついの松が、破屋の横にややまた上坂のぼりざかの上にあって、根は分れつつ、枝は連理につらなった、濃いみどり色越いろごしに、額を捧げて御堂がある。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)