上口あがりぐち)” の例文
上口あがりぐちの処で、くるくる廻っていた飼犬は、呼ばれて猶予ためらわずと飛込み、いきなり梓のたもとに前足を掛けて、ひょいとその膝に乗ってかしこまった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お客の居ない時なんぞは、母子おやこ連れの巡礼か何かに、何度も何度も御詠歌を唱わせて、上口あがりぐちに腰をかけたまま聞き惚れているような事がよくあった。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたくしは初め其意を解しかねて、下駄もぬがず上口あがりぐちへ腰をかけた。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
便所のうしろになつてゐる上口あがりぐちから、智恵子はスタ/\と坂を登つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
別におかんを見ようともせず、上口あがりぐち先刻さっきから立っていたままで、二階を下りようとする、途端にちゃぶ台の片隅につくばって、洋燈ランプの影で見えなかったトンは
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(五助さん、これでしょう、)と晩方遊女おいらんった図にそっくりだ。はっと思うトタンに背向うしろむきになって仰向けに、そうよ、上口あがりぐちの方にかかった、姿見を見た。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二段ばかり少年は壇階子だんばしごを昇り懸けて、と顧みて驚きぬ。時彦は帰宅して、はや上口あがりぐちの処に立てり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
杖を逆に取って、うつぶしになって上口あがりぐちに倒れている、お米のきぬの裾をハタと打って、また打った。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時にふすまと当った、やわらかきぬ気勢けはいがあった——それは次の座敷からで——先生の二階は、八畳と六畳二室ふたまで、その八畳の方が書斎であるが、ここに坂田と相対したのは、壇から上口あがりぐちの六畳の方。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)