万力まんりき)” の例文
旧字:萬力
じつは、パイ軍曹は、さっきからまるで万力まんりきにはさんだようにうごかない機銃について、少々こまっていたところであった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夜はようやくけて行って、水車の万力まんりきの音もやんでしまい、空はたいへんに曇って、雨か風かと気遣きづかわれるような気候になってきたことも
だが、それすら今はかなわぬのだ。もがこうにも、悪魔の腕が万力まんりきの様に引締めている。僅かに靴の先で、運転手の腰かけの背中を蹴るばかりだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
元来万能まんのうだの万力まんりきだのという農具は、みなこのマンバと同様の宣伝名で、すなわちそれがすでに商品として彼らに供給せられたことを語るものである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
庭造りには地所の狭い割に人夫も大勢かかり、万力まんりきなどという道具もいろいろと備え附けられる。そうこうするうちに、庭師の自慢の大石が運ばれて来た。
万力まんりきを思わせるような真赤な大鋏。それはどんな強い敵をも威しつけるのに充分な武器であった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
下に組み伏せられたと見えた眼八、足業あしわざにかけて、相手の胴を万力まんりきのように締めつけ、源次が
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若者は思わずよろめきながら、さすがに懸命の力をしぼって、とられた襟を振り離そうとした。が、彼の手はさながら万力まんりきにかけたごとく、いくらもがいても離れなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小さい方の赤蟻戦士は相手の胸元に万力まんりきのように喰いつき、この戦場における幾まろびのあいだも相手の一方の触角の根元あたりにかじりついて一瞬たりともはなさなかった。
私が手を差し出すと、今まで物言いのやさしかった、その怖しい、眼のつぶれた奴は、たちまちその手を万力まんりきのようにしっかと掴んだ。私はびっくりしてひっこもうと身をもがいた。
しかも彼のあえぐ胸をしめつける万力まんりきは、彼の焼けるような頭にぶつかる種々の面影の騒々しい錯乱は、もっとも困難な最後の行程がなお残っていることを、彼に思い出さした……。
ほそくて冷えきった須美子の指が、万力まんりきのように伸子の手をしめつけた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「ありますよ。万力まんりき甚五郎で……」
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あのガタンピシンというきねの音や、ユックリユックリ廻る万力まんりきや、前の川をどんどと威勢よく流れる水の音なんぞが、なんぼう好い心持だか。
大木の枝にかけた万力まんりきとロープで、蓋でも取るように上に引きあげ、そこから出入りするという珍案を考え出した。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、彼の手は不思議にも、万力まんりきか何かにはさまれたように、一寸いっすんとは自由に動かなかった。その内にだんだん内陣ないじんの中には、榾火ほたびあかりに似た赤光しゃっこうが、どこからとも知れず流れ出した。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これが機関という万力まんりきによって、このあとへ、人ならば二十四人乗りの車が三四十輌つながる、そうして、車輪も鉄であるし、特別の道路をこしらえて、これに鉄の二筋の輪道を置いて
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どうして水車を利用しないんだね、万力まんりきけば早いだろうに」