一荷いっか)” の例文
紅き石竹せきちくや紫の桔梗ききょう一荷いっかかたげて売に来る、花売はなうりおやじの笠ののき旭日あさひの光かがやきて、乾きもあえぬ花の露あざやかに見らるるも嬉し。
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
新妻が、身と共に、そこへ持って行った荷物といえば、一荷いっかの衣裳と、髪道具と、そして、一輛いちりょうくるまだけであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御経の文句を浪花節なにわぶしうたって、金盥のつぶれるほどに音楽を入れて、一荷いっかの水と同じように棺桶かんおけをぶらつかせて——最後に、半死半生の病人を、無理矢理に引き摺り起して
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その跡を追うて料理番の女が、プラム・ケエクを一荷いっか抱えながら続いた。
そうして毎日朝だけ来て水を汲み、まきって一荷いっかずつ持ってくる。この状態が時としては三年も続くことがあったと聴いている。すなわち朝々の水と薪以外は、里方さとかたの用をしていたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
母は毎日、大きなざるを、天秤棒てんびんぼうになって、二十三連隊の営内に、残飯をにないに行った。毎日兵士がいあました飯や、釜の底にこがれついた飯や、残りの汁なんかを、一荷いっか幾らで入札して買って来た。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「一桶二十五ひき一荷いっか五十尾一日五荷は運べると言っていましたよ。五荷というと五々二百五十尾、大変な儲けですな。しかし二人がかりだし、死ぬのも余程あるだろうし、汽車賃も往復五回で……」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おお! 一献いっこんの酒も、一荷いっかの祝いもないと、嘆いてくれるな。わしはどうしても、ここで、そなた達二人を、若い未来へ、幸福な生涯へ、見送らねばならぬ義務がある。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上は白金巾しろかなきんで包んで、細い杉丸太を通した両端りょうたんを、水でも一荷いっか頼まれたように、容赦なくかついでいる。その担いでいるものまでも、こっちから見ると、例のうたを陽気にうたってるように思われる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こぼすなよ。取落すなよ。かような時には、人ひとり失うても、平時の五百三百の損にもあたる。荷物一荷いっかは、百荷にも当るぞ。敵にも、あわてたりと、笑わるるものじゃ。心して渡れよ」
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、検視の舟からは、一荷いっかの酒が、移された。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)