一尋ひとひろ)” の例文
「さ、召捕めしとらねえのか」とあざけりながら、斬ると見せた太刀をさやに納め、針金のように、ピンと張った捕縄の端を一尋ひとひろ手繰たぐってグンと引いた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらくして君とわれの間にあまれる一尋ひとひろ余りは、真中まなかより青き烟を吐いて金の鱗の色変り行くと思えば、あやしきにおいを立ててふすと切れたり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふうときて取出とりいだせば一尋ひとひろあまりにふでのあやもなく、有難ありがたこと數々かず/\かたじけなきこと山々やま/\おもふ、したふ、わすれがたし、なみだむねほのほ此等これら文字もじ縱横じゆうわうらして
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その川の中には珠のような小磧こいしやら銀のような砂でできて居る美しいのあったれば、長者は興に乗じて一尋ひとひろばかりの流れを無造作に飛び越え、あなたこなたを見廻せば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だが三人をつぎ合わしても、やっと一尋ひとひろくらいなものだったろう。
封じ目ときて取出とりいだせば一尋ひとひろあまりに筆のあやもなく、有難き事の数々、かたじけなき事の山々、思ふ、したふ、忘れがたし、血の涙、胸の炎、これ等の文字もんじ縦横じうわうに散らして
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
志賀寺の上人しょうにんは、手に一尋ひとひろの杖をたずさえ、眉に八字の霜を垂れ、湖水の波に水想観すいそうかんを念じたもうに、折りふし、京極の御息女所みやすどころ、志賀の花園の帰るさを、上人ちらと見そめ給い、妄想起りて
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)