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わづらはし
彼はこの情緒の
劇く紛乱せるに際して、
可煩き満枝に
夤らるる苦悩に堪へざるを思へば、その
帰去らん後までは
決して還らじと心を定めて、既に
所在を知られたる碁会所を
立出でしが
一々底意ありて
忽諸にすべからざる女の言を、彼はいと
可煩くて
持余せるなり。
唯憂ひ惑へる
己一個の
措所無く
可煩きに悩乱せり。
今やその願足りて、しかも
遂に饜きたる彼は
弥よ
夤らるる愛情の
煩きに
堪へずして、
寧ろ影を追ふよりも
儚き昔の恋を思ひて、
私に楽むの
味あるを覚ゆるなり。
夫の留守にはこの家の
主として、彼は
事ふべき
舅姑を
戴かず、気兼すべき
小姑を
抱へず、
足手絡の幼きも
未だ有らずして、
一箇の
仲働と
両箇の
下婢とに
万般の
煩きを
委せ